第105話 勇者と魔王と泣き落とし
それからしばらくして、セリシアはようやく泣き止んだ。
なんというか……俺としても非常に居心地が悪かった。そもそも、どうしてセリシアは急に泣き出したのか……意味がわからなかった。
「……ごめんなさい」
セリシアは小さく、なんとか聞き取れる声でそう言った。
「……なんで、謝るんですか?」
「いえ……お恥ずかしいところを見せてしまって……」
「……なんで、いきなり泣き出したりしたんです?」
俺がそう言うと、セリシアはしばらく黙っていたが、恥ずかしそうに口を開く。
「……その……こうでもしないと……ソーマ様が本当に私達のことを見捨てちゃうのではないか、って……」
「……なるほど。泣き落としをしようとしたってことですか。さすがはサキュバスですね。で、俺がサキュバスの見え見えの泣き落としを受け入れると思ったのですか?」
俺がそう言うとセリシアは恥ずかしそうにしたままで黙ってしまった。。
「で、でも……本当に見捨ててほしくないって、私は思っていて……」
セリシアは真剣な表情でそう言った。
俺はわざとらしくため息をつく。
「……あのですね……仮に泣き落としをされても、俺は魔物を討伐しなければいけない立場にあるんです。見捨てるとか見捨てないの話じゃないんですよ」
「それは……そうかもしれませんが……」
セリシアは気落ちした様子を見せる。
「……ですが」
俺はそう言ってセリシアに背中を向ける。
「俺には……あのポンコツ魔王を王都にまで連れて行く義務があります。それが現在の俺にとって何者にも優先されることです」
そして、部屋を出ようとして扉に手をかけたまま、俺は立ち止まった。
「仮にこのままオークを討伐してしまうと、あのポンコツ魔王までその討伐に巻き込んでしまう可能性があります。それだけは避けなければいけません」
「ソーマ様……それって……」
俺は振り返り、セリシアの方を見る。
「それに、パーティメンバーから、泣きながらお願いをされたら、流石に断れませんし」
「ソーマ様……ありがとうございます!」
「……別にお礼を言われるようなことはしてません。ほら、行きますよ」
「え……行くってどこへ?」
「自警団の団長のところですよ。これから俺たちがどうするかを伝えるんです」
俺はそう言って部屋の扉を開けた。そして……言ってしまった以上、もう後戻りはできないのだということも自覚していたのだった。
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