第85話 勇者と魔王と夢(4)

 そして、いつの間にか、俺は眠ってしまっていたようだった。


「のぉ、お主は……好きな人とか、いるのかのぉ?」


 見ているのはまたしてもおなじみの夢だった。転生する前にいた世界の学校、そして、その時に着ていた制服姿の俺。


 となりには顔は見えないが、少女がいるようだった。その少女と俺が並んで歩いている。


「なんですか? 急に」


「じゃ、じゃから! お主は好きな人とかおるのか、と聞いておるのじゃ」


 少女の相変わらずの喋り方……どうしてもマオのことを思い出してしまう。


 どことなく声も似ているような気もする。まぁ、他人の空似というヤツだろう。


「いませんよ。そんな人」


「ほ、本当か? 本当にいないんじゃな!?」


 何度も確認するかのようにそういう少女。制服姿の俺は面倒くさそうである。


「いません。それに、これからも誰かを好きになるなんてこと、ありませんよ」


「ん? どういうことじゃ?」


「……俺は誰からも好かれていませんから。そんな俺が誰かを好きになるってこともありえません」


 ……あぁ。なんとなくこんなこと、言っていた記憶がある。だとすると、この夢は、やはり俺の転生前の記憶を映しているのだろうか?


「なんじゃそれは。そんなわけないじゃろう」


 と、少女が真剣な調子で俺の言葉を否定する。


「儂は、お主が好かれる人間だと思うし、そんなお主に、誰かを好きになってほしいと思うぞ」


 顔は見えなかったが、なんとも恥ずかしそうな感じで喋っているのだけは理解できた。


「……なんですか、それ」


「なっ……! いい言葉じゃろう!? バカにするでない!」


 怒る少女を、制服姿の俺は皮肉っぽく見ている。


 だけど、なんとなくこれだけはわかる。


 先ほどの言葉は俺にとって、とても嬉しいものであったということを。

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