第84話 勇者と魔王と親密

  そして、その日も結局野宿となった。


「ソーマ?」


 と、焚き火をただ見つめていると、マオが俺に話しかけてきた。


「……なんですか? もうセリシアもドラコも眠りました。アナタも寝て下さい」


「ソーマは……寝ないのか?」


「全員眠ってしまったら、誰が見張りをするのですか? 無論、俺も少しは寝ますけど」


 実際、この奇妙な道中が始まってからまともに眠ってはいない。


 といっても、俺は少しの睡眠で体力も回復できるので、そこまで問題にはしていなかったのだが。


「そ、そうか……しかし、身体に悪いのではないか?」


「心配してくれるのはありがたいですが、大丈夫です。さぁ、寝てくださいよ」


 と、俺がそう言ってもマオはずっと俺のことを見ている。なんだか調子が狂ってしまう。


「……なんですか? 何か言いたいことでも?」


「その……この前から思っていたのじゃが、儂のこと、名前で、呼ぶようになってくれたのじゃな、って……」


 なぜか恥ずかしそうにしながらそう言うマオ。


 ……確かに呼んでいた。今更ながらなんだか負けてしまったような……悔しい気分になった。


「そうですね……で、それがなにか?」


「いや……少しはお主も、儂と親密になりたいのだな、と思ってのぉ」


 なぜか嬉しそうにそういうマオ。その笑顔を見ていると、なんだかこの前の謎の感覚を思い出す。


「別にそんなこと、思っていませんよ。アナタとは王都までの付き合いですから」


「フフッ……そんなことを言って、お主は素直ではないのぉ」


「……さっさと寝てくれませんか? 俺だって、あまり体力を消費したくないんですよ。見張りもしないといけないし」


 俺がそう言うとマオは少しムッとした顔をしていたが、やれやれという感じでそのまま横になる。


「儂は……嬉しかったぞ、ソーマ」


 小さな声でそう言ってマオは目を瞑った。


 なんで感謝なんてされなければならないのか……そもそも、俺は感謝されるような人間ではないのに。


 そう思いながら俺は、マオの寝息が聞こえるようになった後も、しばらく焚き火の炎を見つめていたのだった。

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