第76話 勇者と魔王と怒り

 いきなり大きな声で叫んだマオに対して、俺も老婆も驚いてしまった。


「……や、奴らは何もしていないではないか……それを……」


 マオはそう言って明らかに怒っているようだった。


 ……まぁ、一応は魔王ではあるし、自分の部下、同胞を虚偽情報によって討伐されては、腹が立つのも当然ではあるだろうが。


「……あ、あぁ……お嬢ちゃん。でもねぇ、魔物はいるだけで人間にとっては害でしないんだよ?」


「い、いるだけで……害?」


 マオは信じられないという顔で老婆を見る。


「だって、そうだろう? いつ襲ってくるかもわからないし……魔物や魔族なんてのはいないほうがいいだろう?」


 ……不味い気がする。マオは明らかに怒りで震えていた。


「マオ」


 俺はマオの肩を叩いた。マオはあからさまな怒りの表情で俺のことを睨む。


 流石にポンコツ魔王といえど、怒ると何が起こるかわからない。ここは穏便に済ますべきだろう。


 それから、俺は老婆の方を見る。


「もう良いですか? 俺たちは依頼を達成しました。それに、そろそろ夜が明ける……村を出ていくことにしますよ」


「え? そうなのかい? せっかく魔物を討伐してくれたんだから、もっと色々饗そうって、思っていたんだけどね」


 と、俺はそのまま先ほど老婆が渡してきた、貨幣が入っているであろう袋を老婆に返した。

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