第77話 勇者と魔王と仕事

「これも、いりません。お返しします」


 そう言って袋を差し出すと、老婆は面食らった顔をする。


「そんな……それじゃ、アンタ、タダ働きじゃないか」


「いいんです。これが、俺の仕事ですから」


 そう言ってから今一度マオの方を見る。


 微かだが……頭の上に角がぼんやりと浮かんできているように見える。怒りで魔力を制御できていないのだろうか?


「そ、そうかい? なんだか悪いねぇ……」


 そう言いつつも、老婆は即座に袋を懐にしまった。


 そりゃあ、タダで魔物を討伐してくれるという奇特な人間がいるのだ。金を払わなくていいならそれに越したことはない。


「では、宿に戻っています。連れを起こしてこないといけないので」」


「わかった。アタシはもう少しでここで様子を見ているからね」


 そう言って燃える森を嬉しそうに眺める老婆と別れ、俺とマオは宿屋に向かう。


「……角、見えかかってますよ」


 老婆から十分離れてから、俺はマオにそう言った。


「……うるさい。見えても別に構わぬ」


 マオは明らかに不機嫌そうだった。それは……ただ単に、自分の部下、同胞を殺されたから、というだけではなさそうだった。


「……お主、わかっていたのか?」


 と、マオは俺の方を不安そうに見る。


「何がです?」


「……あの老婆が嘘をついているということじゃ。わかっていて……あの巨狼を討伐したのか?」


 俺の答えにマオは不安を感じているようだった。


 もし、ここでわかっていた、と言えば……おそらく、このポンコツ魔王は精神的に深いダメージを負ってしまうだろう。


 しかし――


「いえ。残念ながら、俺は人の嘘を見抜くスキルは持っていないんですよ」

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