第65話 勇者と魔王と元気のない村

 それから程なくしてのことであった。


「お、おぉ! 見えてきたぞ!」


 嬉しそうにそう言うマオ。その視線の先に、たしかに村のようなものが見えた。


「今度は、人がたくさんいるといいですね」


 俺は皮肉っぽくそう言うと、マオが睨むようにそう言う。


「……お、おぉ! そういえば、ドラコは大丈夫か?」


「大丈夫、とは?」


「角と尻尾と翼のことじゃ。隠せているのか?」


 マオがそう言って振り返ると、既にドラコの角、尻尾、翼は見事に失くなっていた。


「はい。大丈夫ですよ。このように」


 自信げにそう言うセリシア。ドラコは無表情でこちらに向けてピースをしている。


「どうやら、子供の魔族でも簡単にできる魔法のようですね」


「……わ、儂が教えたから上手くできているだけじゃ! ほれ! さっさと村に行くぞ!」


 ごまかすようにマオはそのまま歩き出す。俺たちは少し離れてその後を続く。


 村に近づいてみてわかったが、やはり、今回の村は人が複数いるようだった。


 少なくとも、無人であったり、老人が一人しかいないということはなかった。


 しかし――


「なんだか、元気がないようじゃな……」


 マオが不安げにそう言う。確かに村人は覇気がなく、行き交う人々もどこか落ち込んでいるようにも思えた。


「こういうときは、やはり情報収集をしたほうが良いのでは?」


 と、セリシアが提案する。


「それもそうじゃが……まずは、今夜眠ることができるベッドを用意すべきじゃな!」


 良さげなことを言ったように見えるが、単に自分が眠る場所を確保したいだけである。


「……まぁ、まずは宿屋に行きますか」


 結果として俺たちは先に宿屋に向かうのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る