第55話 勇者と魔王と責任

「……は?」


 流石に俺は思わずそんな声が出てしまった。


「……ダメ、ですか?」


 サキュバスは潤んだ瞳で俺のことを見る。俺には魅了の効果はないので、ただただ、ウザったいだけなのだが。


「いや、ダメとかそういう問題ではなくて……なぜ同行したいのです? そもそも、フリをしていたとはいえ、一応アナタはこの教会のシスターでは?」


「いえ、私はただ、ここに追いやられてきただけですから……」


「……追いやられた? それは……サキュバスの仲間とかに?」


「違います! 前々から言っていますが、私は元々はサキュバスではなかったのです! その私がなぜかサキュバスにされた上で、この教会に追放された……それが、私の認識なのです!」


 ……よくわからないが、サキュバス曰く、自分は元からこの教会にいたわけではないと言いたいのだろう。


 もっとも、勝手に人のベッドの中に入り込んでくる魔物だ。言葉をそのまま信じるわけではないが。


「私としては、おぼろげながら王都という言葉を覚えているのです……もしかしたら、私がサキュバスとしてこの教会に追いやられた理由が王都にあるかもしれない……ですから! お二人の旅に同行したいのです!」


 そう言っていきなりサキュバスは俺の手を握ってくる。


「お願いします! 勇者様! どうか……この哀れで可愛そうな私を助けると思って!」


 ……目の前のサキュバスが、かなり面倒なヤツだということが今になってようやくわかった。


 しかし、どうすればいいのか。そもそも、マオがこのサキュバスの同行を許すのかどうか――


「儂は別に良いと思うぞ」


 ……あっけなくマオはそう言って許可を出してしまった。


「……良いのですか?」


 俺がそう言うと、マオは嘲笑うかのような目で俺のことを見る。


「仕方ないじゃろう? お主にも責任というものがあるじゃろうしな」


 明らかにマオは俺とサキュバスとの間で何かあったと考えているのだろう。


 別にマオにどう思われようがどうでもいいのだが……このサキュバスに俺が手を出したと思われているのは心外である。


「ありがとうごいます! では、お二人共、これからよろしくおねがいしますね!」


 俺のそんな考えも知らないで、サキュバスは嬉しそうにそう礼を言ったのだった。

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