第45話 勇者と魔王と本能

 ……なるほど。つまり、この教会には魔族が一匹ではなく、二匹いたということである。


 ドラゴニュートを保護していたのも、このシスターがサキュバスだったということならば理解できる。


 それにしても……


「……なんですか? 元々は違うって」


 シスターが口にした気になる言葉を俺は訊ね返す。


「で、ですから……私は! 元々はサキュバスではないのです!」


「元々は、って……じゃあ、元々はなんなのですか?」


「そ、それは……」


 シスターはなんとかして言葉を口にしようとするが、出てこなかった。


 悲しそうな顔で俺のことを見るシスター。


「……言えないのですか?」


 シスターは悲しそうな顔で俺のことを見ている。元々が一体なんだったのか、説明できない……それは、まぎれもなく嘘をついているとしか俺には思えない。


 それか、適当なことを言って俺を油断させようとしているか……その二つだった。


「で、ですが! 私は! 本当に元々はサキュバスではないのです!」


「……そうですか。だったら、俺を拘束しているその手、離してもらえませんか?」


「む、無理です! サキュバスの本能に逆らえないんです!」


 泣きそうになりながらも、らんらんとした目つきで俺のことを見ているシスター。


 だったら……無理矢理にでも離れてもらうしかない。


 俺はスキル「全力」を発動する。瞬間、身体中に力が溢れ出す。


「え……な、なんで……?」


 シスターは驚いているようだったが、俺はそのままシスターの腕を引き離し、逆に壁際にそのまま追い詰めたのであった。

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