第39話 勇者と魔王と道具箱

「うぅ……少し食べすぎたかもしれん……」


 と、食べ終わったら食べ終わったで、マオはそんな泣き言を言っていた。


「そりゃあ……あれだけ勢いよく食べればそうでしょうね」


 俺が嫌味な感じでそう言っても、すでに完全に満腹になって満足しているのか、大きくあくびをしている。なんとも呑気なものである。


「フフッ。ご満足いただけたようで、嬉しいです。違う部屋ですが、ベッドも用意していますので」


「本当か!? うむ! 神に仕える人間にも良い人間はいるのだな!」


 やはり、食事と寝る場所を提供してくれるならば、マオにとっては誰でも良い人間のようである。なんとも単純な話である。


「ところで……シスターはずっとこの教会に一人で?」


 俺がそう言うとシスターの動きが少し止まった。そして、笑顔のままで俺を見る。


「え、えぇ……一人ですよ」


「そうだぞ、ソーマ。この教会に人間は一人だけだ」


 と、いきなりマオがそんなことを言った。俺もシスターも思わず同時にマオのことを見てしまう。


「……ん? 何か変なことを言ったか?」


「えっと……人間は一人だけ、というのは、どういうことです?」


 俺がそう訊ねると、マオは目を丸くして俺を見る。


「そのままの意味じゃ。それ以外無いじゃろう」


「いや、ですから……シスター以外に何者かがこの教会にいるということですか?」


 俺がそう言うとマオは当然だといわんばかりに頷く。


「そうじゃぞ。なんじゃ、お主、気付かなかったのか?」


 マオに馬鹿にされているようで癪だったが、俺は渋々スキル「気配察知」を発動する。


 と、すぐに俺にもわかった。というか、なんでいままでわからなかったのか。


 今まで食事をしていた部屋の隅には……不自然に大きな道具箱が置かれていたのだ。


 何者かの気配は、その道具箱の中から感じられるのであった。

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