第5話 若き少女の初陣 Part3

 「沙耶子さん。お腹すいてないか?いまからどこかに食べに行こう。俺は初めての穢れ払いの前にはほとんど何も食べられなくて、終わってから猛烈に腹が減った覚えがある。金沢だったんだが、ゴリラ印のカツカレー3杯食べたら店員から尊敬のまなざしで見られたなぁ。それに、1時間も前に現着しようだなんて、沙耶子さん結構緊張していたんじゃないのか。」沙耶子から受け取った20式パルスレーザーガンをバックバックに入れながらまるで部活帰りの買い食いの相談のような、のほほんとした様で語り掛けける。「1時間前現着は私のポリシーだから。」こちらは初めての穢れ払いを終えて精根尽き果てたかの気分だと言うのに、まるで大したこともなかったかのような態度に内心少しイラつきながらもそっけなく返事をする。しかし、その瞬間にとんでもなく空腹を感じていることに今更のように気付いた。同時に光時が労わってくれていることにも思いが至り、感謝の念を覚えずにはいられなかった。「それ黒いカレーでしょ、ロースカツカレー3杯は尊敬じゃないでしょ。」「あぁ、改訂が必要だな。ロースカツじゃなくてチキンカツな。金が無かったんだ。でも、今日は金たっぷりあるしおごるよ。」「そうね。何か食べに行くのはいい考えね。でも改訂するところ、そこじゃないでしょ。まぁ、おごってくれるなら細かいことは言わないは。私が食べたいお店でいい?それと、覚悟してね。私結構食べるから。」「了解。初陣祝だから贅沢に行こうか。」光時はCRF-1100Lsに跨り沙耶子の目を柔らかく見つめながら微笑んだ。その笑顔が思いのほか魅力的に見え、沙耶子は慌てて視線を外してしまった。「これは吊り橋効果なのかな。」声に出しそうになって慌てて口を噤む。出会って一月も経っていない相手に好意を抱くなど、静謐な空間でひたすらに神に秋津洲と現世の人々の平穏を請い願ってきた今迄の沙耶子の人生からは想像もできない事であった。自身の心の乱れを気取られないように平静を装い、CRF250Lのセルを回すとサイドスタンドを蹴り上げギヤを一速に入れる。女性としては高身長な上、足が長い沙耶子はタイプsでもぎりぎり足付きに問題はなかったが、170cmを5mm超えた身長にコンプレックスを持っており、多くの女性が選択しそうなシート高の低いタイプを選んだ。「じゃぁ、ついて来て。中山手通からトアロードを少し下ったところにおいしい地中海料理のお店があるから。」ことさら明るく振舞い、先行してバイクを出す。普段より粗くクラッチをつないでしまい後輪を鳴らしながら走り出す。その夜、光時の財布は大いに軽くなり、沙耶子の体重が少し重くなった。

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