第五話☆先輩後輩



「え?!な、何するのぉ」


顔面チョップを受け、ピリピリと痛む自分の鼻頭をさすりながら私は弱々しく尋ねる。


「もう!一から教えてあげる!よぉおく!聞きなさい!


木の中には私たち妖精族の子どもである、妖精の種が宿るの!まぁ、宿っているのと宿っていない木は見た目に差がないから、分からないのも仕方ないわ。


だから!木を切る前に、そこに妖精の種がいる時のために、「その木を切りたいの!違う木に移ってくれないかしら?」っていうお祈りをするの!


妖精の種のうちは、木を移動できるから、なぁんの問題もないわ!」


「えっ!?じゃあ、私その妖精の種って言うのを切っちゃってるの???」


「あぁ、安心なさい。直前に移動できてるみたいよ。でも、お引っ越しと同じなんだから、荷造りとかの時間をちゃんと与えてあげなきゃいけないのよ!」


レアの言葉に私はホッと安心しつつ、気になる単語が耳に残る。


「…荷造り?」


「あったりまえよ!!木の中には生活用品とかいっぱい入ってるんだから!」


「生活用品…?」


え、全然想像できない。ってか木の中にそんな空間があるの…?


「私だってこのお洋服とか、毎朝ちゃあんとお手入れして、キラキラするようにしてるんだから!

特にまだ生まれたばっかの妖精は、先輩の妖精が来たときにおもてなししなきゃならないのよ。その準備とかも大変なのよ??」


わぁお。そのちょっとキラキラしてて神秘的だな、って思ってた服は妖精の魔法の粉が溢れちゃってるわけじゃなくて、毎朝仕込んでるんだ…


しかもおもてなしって何…?


「例えばおもてなしってどんなことするの?」


「…え?見栄えの綺麗な葉っぱとかお花を献上したり、先輩の無茶振りにも対応することかしら?」


え、なにそれ。妖精業界って怖っ。

レアも…こんなに元気で全く想像できないけど、色々苦労してるんだな…


私はフッと優しく微笑み、レアに哀れむような目を向ける。


「レアも、苦労してるんだね…」


「…は?…‥は?あなた何よその目。なんかムカつくわね。私はやりたい放題してるから苦労も何もないわよ。」


「…え。まさかレアって先輩の妖精なの?」


「あっっったりまえでしょう!!!!」


レアが両手両足をジタバタ動かしながら私の答えを否定する。レアの激しい動きに合わせて緑色のドレスがフワッと膨らみ、キラキラと妖精の粉のようなものが宙を舞う。


あ、今もし漫画だったら「ムキーッ」っていう効果音が入るんだろうな。


「私のこの立派な姿が見えないのかしら!?いいこと?妖精っていうのは自分の形を保つだけでもすっごく大変なのよ!しかも私みたいに知能指数も高い妖精はなっかなかいないんだから!」


「ええええええ!そんなにすごかったんだ…。ごめん、ちょっとレアのこと見直したよ。レアって意外とすごいのね。」


「意外って言葉は余計よ!!私はこれでも何千年か生きてるし、そこらの妖精とは格が違うのよ。」


レアはフフンと言いながら全くない胸を反らしつつ、自慢気に語る。


「ちなみに、後輩に言う無茶振りって例えばどんなこと?」


「あ〜。そうねぇ。ついこの間だと、このあたりにある、木についた葉の枚数を数えなさい。だったかしら?風が吹くたびに葉が落ちて葉の枚数が変わるから、ちょっと大変そうだったわ。」


うわ。見直した、とか言ったけど前言撤回。レアは鬼畜だ。でも、一応無茶振りっていう自覚があるならまだマシなのかな。


「…ち、ちなみに何枚くらいあったの?」


レアは一瞬考える素振りをしたあと、無邪気にきゃはは!と笑った。


「何か言ってたけど、忘れちゃったわ!だって数えきる頃には2,3年経ってたし。飽きちゃったのよねぇ。」


また前言撤回。レアはただの鬼畜だった。

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