第22話 巨人の島 その5

 救助しに来たとは言っても、滞在期間に限りがある。それでもエイル達はやれることをやった。


 1つ目は簡易医療所の建設と緊急時の連絡体制作り。避難所は小規模大規模合わせて110ヶ所あり、簡単な治療ですら環境が整っていないところがあった。また、もしものこともあるため、他領土にある医療関係の施設へ連絡出来るように体制を作った。


 放浪の身だったエイルでは難しい点があったため、ルーシー達の助けを借り、巨人の王と霜の村の長などが集めた情報とすり合わせて、形として出来上がった。建設と体制作りだけではない。


「ここをこうして」


 巨人の島の医学の知識は周辺に比べ、遅れていたため、現地の治癒魔術師に指導をしていた。解剖図や疾患に関する本などは後ほど送る予定である。先生として教えていたエイルは熱心な現地の治癒魔術師を見て、彼らに対しての好感度が増した。だから気合が入るというものだ。


「この分布だとこの草が生えてまして」


「始めて見るな。作用とかを分かる範囲で書きだしてくれ」


「はい!」


 教えるだけではなく、巨人の島独特の薬草などの知識を吸収していく。纏めたものを巨人の島の中で共有していくと、更なる医療の発展が見込める。若い人同士で張り切っていく場面が多かった。


 2つ目は転移陣の設置と通信系の魔術の設定である。これらはエイル達治癒魔術師がやっているわけではない。高度な計算能力が出来るヴィクトリア達が行った。フィー公国のキャンプ地の報告書のコピーが役に立った。


「まさかこんな時に使えるなんて思ってもみなかったわ」


 念のため持っていったコピー本が使えると知った時、ヴィクトリアの顔は言葉で言い表せないぐらい複雑だった。


「転移陣の設置は時間かかるため、優先順位が高いとこからやっていきたいのですが、地点を指定していただけると、こちらとしても助かります」


「領土の長を呼び、緊急会議を行っていこう。通達の文だけでは難しいだろ」


「あっありがとうございます」


 巨人の王達の協力もあり、スムーズに転移陣の設置が進んでいった。通信系については現地の人から情報を聞きながら、何度もテストを行って、調整をしていったとのことだ。限られた日数を考えると、よくやった方のはずだが、ヴィクトリアは頬を膨らませ、不機嫌になっていた。


「私が行く度に子供みたいに扱うのよね」


「貴殿が最年少だからだろうな」


「……マチルダが羨ましいわ」


 子供扱いにされるのが嫌だったようだ。たまにマチルダに愚痴を言っている様子を何人かの仲間達が目撃していた。魔術師としても超一流だが、最年少ということもあり、歳をとっている巨人たちにも人気があった。


巨人たちにも人気と言えば、隣のマチルダもだ。偏見を持たず、武技に秀でている。騎士精神に富む彼女と接して、悪い印象を抱く者は滅多にいないだろう。


「動きが鈍いぞ!」


 救助団体として行った援助の3つ目の話に繋がるが、マチルダはティタンの領土にいる巨人たちを指導していたのもあって、慕われている。


 避難中に遭った怪しい魔術師の報告は意外にも霜の村以外にもあった。今後も似たようなケースがあるかもしれないというわけで、マチルダやダンデを含む戦闘に長けている団員が色々と鍛錬に付き添っていた。戦えない人達を守りながらという想定をした実戦形式が多かった。大きさがあまりにも違うため、基本的な戦い方は異なるが、共通点はあったため、その辺りを教えたらしい。


 4つ目は巨人の島にノーボーダーズの事務局を置くことだ。本部があるドラグ王国から駆けつけ、巨人の島に着いた時には、災害発生から5日も経っていた。「早く駆けつけることが出来れば救えたのに」と言う悔しい思いがきっかけだ。


 治癒魔術師と事務員などの募集はもちろんのこと、他国との協力や巨人に対する偏見など、問題は山積みではある。それでも前に進めているだけ、良いのだろうとエイルは思う。


「あとは任せた」


「はい!」


 そのおかげで、活動に熱心な人に事務局を任せることが出来た。別の国にも募集や物資などの補給などの調整ができる事務局を増やしていきたいとエイルは考えている。


 他にも様々な援助活動を行ってきた。津波でダメになった畑の土壌を元通りにしたり、地上に上がっていた船を海岸に戻したりと、元の生活ができる手伝いをした。行方不明者の探索も忘れてはいない。名前をメモに記し、人を探していく。生存者を見つけることが出来ず、ショックを受ける人が多かった。人を救うために来ているので無理もない反応だ。


「見つけることができ……グズッ」


 何人かは感情が爆発し、大泣きしたり、食欲が出て来なかったりと、精神的にダメージを受けていた。エイルはどうにか励ましたいところだが、悪化しそうなので、静かに聞く。救助団体の仲間の精神ケアも課題だなと改めて感じた出来事だった。


 発見したものは死んでいるが、それでもまだマシだ。見つからない人がいる。引き波の影響で海中に行ってしまうケースが多い。だからか、現地民の何人かは感謝を伝えていた。


 見つけた遺体は火葬場に運ばれる。5mぐらいの石の扉の前に置く。その扉は黄泉の国に通じるものだと言い伝えられているのだそうだ。人間の女性2人が聞き取れない祝詞を唱え、赤い火が出てくる。見送る人達が祈る中、遺体が焼かれていく。黒くなり、灰と化した後、石の扉が開かれる。まるでどこかへ旅立つような、そう思わせるような風が吹いていた。


 同席していたエイルは、寒い時期にも関わらず、暖かい春の風を感じていた。不思議なことだと思った。


「感謝をしているのですよ。家族に見守られながら、黄泉へ行けるのですから」


 祝詞を唱えていた女性の1人が穏やかな笑みで教えてくれた。この言葉で少しだけ楽になった。仲間も感謝の言葉で奮い立たせて、援助活動を行った。


 こうして春になる前に、巨人の島でのノーボーダーズの活動の期間が終わった。今回出てきた反省点を踏まえ、団員のメンタルケアの仕組みを作ったり、他国の事務局を立てたりなど、エイルはリーダーとして動き始める。その第一歩として、ノーボーダーズ設立後の正式な活動記録を書く。


 まだまだ改善点があるなと思いながら、書いていった活動記録は後に国王の手に渡り、周辺国家に知られていく。謎だった巨人の島の実態、災害の恐ろしさ、謎の小さい魔術師の存在などの情報が広まっていった。


「これは良いことなのかもしれないな」


 国王陛下からの文を読んだ後、エイルはそう呟いたのだった。力不足だったり、見通しが甘かったりと、失敗面が目立つが、巨人について知れ渡る良いきっかけになってたのだから。


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