ノーボーダーズ!~国境超えて救助します!

いちのさつき

初期メンバーの出会い

第1話 エイルという人物

 冒険者と言う職業は男なら憧れるものだ。栄光を手にし、英雄になれるのだから。とは言え、これは都合よく国が宣伝し、たくさんの人を集め、彼らを都合の良い調査員として、使っていただけである。現在は一応は国の支援があるものの、危険な仕事を請け負う個人営業だ。


 内容としては様々だが、行政が介入しづらい地域での魔獣討伐や亜人達が住むところの助っ人などが主になるだろう。危険な分、報酬は高い。それだけの理由で冒険者になる人だっている。ドラグ王国の住民も例外ではない。


「ここがギルドか」


 雪のように真っ白な背中まである髪を2つに結ぶ赤目の中性的な顔立ちをしてる青年もそうだ。ワイシャツに茶色のベストとズボン、ブーツと言った格好で、何処にでもいるような農村の青年にしか見えない。違った。


「あの子、かわいー。お前話しかけねえの?」


 男装した女性にしか見えないの間違いだった。国が運営する冒険者の仕事の斡旋場であるギルドに入る男性が勘違いしているぐらいだ。


「ちっ」


 青年が舌打ち。可愛らしい顔立ちとは思えない行為である。


「これだから腐った野郎は」


 毒を吐いた。青年はため息を吐きながら、木の扉を押していく。目の前に受付嬢が3人おり、依頼内容が貼られている掲示板が右側にあり、たまり場らしき酒場が左側にある。ちらほらと人がいるだけで、ほとんどは依頼をこなすために外出していると考えて良さそうだ。


「すみません」


 早速、受付に行く。茶髪の女性が対応してくれるようだ。


「はい。ご依頼の要望でしょうか。或いは新規で冒険者として登録をしに来ましたか」

「登録をお願いします」


 女性の声と受け取れるような、男性の声と受け取れるような不思議な声を持つため、話している時でさえ、青年の性別が分かりづらい。そのお陰で、受付嬢はじーっと注視している。


「あの」

「あっはい。も、申し訳ございません。新規登録の方ですね。こちらにお名前と年齢などを書いてください」


 茶色のあまり質の良くない紙に羽ペンで書く。名前にエイルと書く。本名は長く、呼びづらいため、愛称を選択した。女神の名前で嫌なのだが、どうせ呼ばれる事になる。そして登録時、ペンネームで問題ない。それならいっそのこと、最初からそう選択すればいい。そう言った理由だ。


「おーい。アイリスさん」


 男の声が聞こえる。隣の受付嬢と見知っている冒険者が入ってきたのだろう。面倒事になる前に書き終えておこう。そう思いながら、次の項目に移る。パーティーの中での役目。治癒魔法を使えるし、実際に魔術師の元で修行していた身だ。治癒魔術師と書いた。後の項目も書き終えて、紙を受付嬢に渡す。


「はい。これで手続きは終了です」


 あっさりと冒険者の手続きが終わる。試験などを行わないのかと疑問に思うが、現在の冒険者は個人営業だ。自分で力量を見極めてやっとけと言う事だろう。エイルは自分で強引に納得させて、ギルドの証であるクリスタルの小さいカードを受け取る。


「これは身分証明代わりになってますので、なるべく失くさないようにしてください。お仕事はあちらの掲示板にありますので、実力に合うように選択してください」


 これで晴れて冒険者の一員になった。エイルは自分の目標の第一歩だと思いながら、掲示板に行こうと歩き……始めようとしたのだが。


「そこの彼女」


 隣で受付嬢と会話をしていた男性から話しかけられた。短いサラサラとした金髪に緑色の瞳で爽やかな印象を持つ好青年。隣に大柄な褐色肌で盾を持つ男性ととんがり帽子を被った紫色の衣装を着た眼鏡をかけた知的な女性もいる。


「俺らと一緒に行かないか」

「あ?」


 不良そのものの返事である。好青年はその反応を気にせず、話を続けていく。


「初めてなんだろ。しかも君のような子は何か目的があってこの業界に入ってきた。何も知らない初心者ってことだ。それならある程度経験を積んでる俺達のとこで見学して知っておくのも損はないはずだ。どうだい?」


 まさかの提案。エイルは考える。何か企んでいるのだろうか。冒険者は個人で行う物であって、利益がない初心者に教える事があるのだろうか。


「また始まったか」

「ルーカスったらもー」


 親しい仲らしい2人が暖かい目で好青年のルーカスとやらを見守っている。これはマジで馬鹿なお人好しだなと思った。こちらに不利益があるわけではない。受けるしかないと判断する。


「分かった。先輩の仕事、見学させてもらうよ。それとここで名乗っておくよ。エイルだ。よろしく、先輩?」


 エイルは承諾代わりに右手を差し出す。察したルーカスは右手を差し出して、握手を交わす。交渉成立というやつだ。


「よろしく。俺はルーカス。魔術師の女性がソフィアで、盾を持つ男性がウッドだ。よし。それじゃ、早速依頼を」

「すみません。ルーカス一行ですよね」


 依頼を選択しようとした矢先だった。丸い眼鏡をかけたカチューシャをした金髪の女性が1枚の依頼の紙を持って近づいてきた。


「はい。そうですが」

「緊急性の高い依頼が来ました。実力のある貴方たちにお願いしたいのです」


 女性はルーカスに依頼の紙を渡す。眉が動いた。


「これは治癒魔法が使える人もいるな」

「私も一応、使えるんだけど?」


 知的な女性はどうやら多少の治癒魔法の心得があるようだ。


「確かに君は治癒魔法も使える。それでも簡単な傷の手当レベルだろ」


 ルーカスは依頼の紙を知的な女性に渡す。あっさりと納得したようだ。


「あーなるほど。確かに私レベルじゃ、助けられるとも限らないって事ね」

「それに君は攻撃魔法を使って欲しい。ウッドはいつも通り、盾役を頼む。見学者の

エイルを守ってくれ」


 役割分担を行っているパーティーである事が分かる。リーダー役のルーカスが手早く指示を下している辺り、攻撃役でもあり指揮官でもあるのだろう。ソフィアから依頼の紙を受け取って見ていく。近くの山にある洞窟からだ。魔術師の女性1人が依頼者だ。大人数の救援依頼。魔法で助けを呼んだらしく、現在の状態が分からないようだ。確かにルーカスとソフィアの言った意味が理解出来る。


「あとは治癒魔法に長けている者が欲しい所だが」

「それならいるぞ」


 手を挙げる。3人の視線はエイルに集まる。


「知ってるのか!? 治癒魔法の使い手!」


 ルーカスはエイルの両肩を掴んで、身体を揺らす。


「揺らすな! 俺がその使い手だ!」


 揺らす行動を止める。両手を肩から離す。


「そうか。君が」

「ガレヌスと言えば分かるか。その人から治癒魔法や薬草などについて教わった」


 ギルド内がざわつく。無理もない。ガレヌスはドラコ王国内で著名な治癒魔法の使い手だ。


「弟子がいるという噂は聞いていたが……女の子だったとは」

「お前の頭はスカスカのかぼちゃか! 気付いてもいいだろ! 俺は男だ!」


 エイルはルーカスの言葉を否定した。若干苛立っている。


「あはは……ごめん。っとこうしてる暇はないね。君がガレヌス先生から教わってるのなら話が早い。出発する準備を取り掛かろう。普段の依頼とは違う。油断するとこちら側が死ぬ危険性がある事を頭に入れておくように」


 気を引き締めていく。


「了解。俺は武器の確認だな。短剣でいいな」


 ウッドは武器の確認。


「ああ。それと魔力無しで頼む。恰好はこのままで行こう」

「私と彼でポーションとかを買いに行くわ。だから手続きをしてくれる?」

「そうだな。終わり次第、村の北口に集合だ」


 テキパキとした人達だ。優れたリーダーと優れた仲間。これこそエイルの描く理想そのものだ。いずれこの形にしていきたいところだ。そう思いながら、先輩の魔術師ソフィアに付いて行く。


「薬局に行くわよー」

「ああ」


 エイルは高い報酬金を得るために冒険者になった。それ以外に人脈を作るために入ってきたと過言ではない。冒険者として活動し、何に繋がるのか。それは国という枠組みを超えて活動する医療・人道救助団体の設立をするため。


 ギルドの加入、そして先輩の仕事の参加はその第一歩だった。設立時、女性ばかりになるわけだが、その出会いは次のお話で。

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