第五章 魔王

第一話 報告(1)


 俗称カプレカ城の玉座には、連合国との戦いを終えた幹部たちが集まっている。


 玉座には、魔王が一人で座っている。

 普段なら、左右を魔王の側近であるルブランや四天王が護衛を兼ねて控えている。しかし、今日は身内だけの集まりであり、連合軍との戦いの報告を魔王に行う。


 進行は、ミアが務めている。ミアが自分から言い出したことだ。


「王国の報告は以上です」


 本来なら、カンウやモミジが行うのだが、ヒアが魔王にまとめた報告を上げている。

 カンウとモミジが別々に動いていたこともあり、全部をまとめる役割を持っていた者がいなかった。比較的、全ての戦場に顔を出していたのは、ミアだがミアは進行役として報告を免除されている。


「ヒア。王国の領土に居た魔王たちは?」


 魔王からの問いかけに、ヒアは作成した資料に目を落とす。

 想定される質問は、ルブランに聞いている。魔王が、王国に居た魔王を気にするのは解っていた。


 既に、軍門に下った魔王ギルバード以外にも魔王は存在していた。


「はっ。魔王様のご指示通りに、交戦か恭順か問いただして、交戦を選んだ場合には一度ダンジョンの外に出てから、日数を開けてから攻略を行いました」


 交戦を希望した場合には、全員がダンジョンから退避して、魔王に準備を整えさせてから再度攻略を行う。

 魔王が提示した方法だ。2回目も同じように、問いかける。ここでも交戦を選んだ者には、同じようにダンジョンの外に移動して、攻略を行う。時間がかかるが、確実に心を折りにいく方法だ。

 カプレカ軍にはメリットが存在しないが、魔王が望んだことだ。他に、理由は必要ない。


 自ら”死”を望む者が出てしまったのが魔王としては残念だが、それは本人の選択だ。自ら”死”を望んだ魔王は、魔王を討伐するのではなく、コアの破壊を行った。


「被害は?」


「軽微の怪我は多数出ましたが、継続戦闘不能者は6名。死亡は0です。継続戦闘が難しい者も、治療を終えて日常生活に復帰しています」


 その場で動けなくなる物を、継続戦闘不可能な怪我と位置づけている。

 軽微の怪我は、戦闘の継続が可能で、後遺症が残らない怪我を指している。


「そうか・・・。戦闘は無理なのだな?」


「本人が望みましたが、家族が・・・」


 ヒアが申し訳なさそうな表情で魔王に事情を説明した。


「わかった。しっかりとフォローを頼む。それと、復帰を望む者には、戦闘以外の部署もあると家族に伝えろ」


 戦闘を行うだけが、貢献ではない。

 魔王領は広大な領土になっている。その中には、文官も必要になってくる。友好的な付き合いがある帝国が存在している。人材の交流は少ないが商取引は既に始まっている。

 これに、元王国と元連合国が加わる可能性が高い。

 残る皇国は、傍観の構えを見せているが、既に攻め込める状況ではないのは、皇国も解っているだろう。

 大陸の6割以上を、魔王が掌握している。軍事力だけでも脅威なのに、帝国が魔王にすり寄る動きを見せていることから、皇国が一国で立ち向かうには、魔王が強大になりすぎてしまっている。


「はっ」


「恭順を示した魔王は?」


「控えさせています」


「何人だ?」


「67名です。消滅したダンジョンは6箇所。継続ダンジョンが5箇所です」


 67名が多いのか少ないのか魔王には判断が出来ない。

 それでも、”死”を選んだ魔王が少ないのは良かったと考えている。皆の知恵が集まれば、より発展した世界の構築ができると考えている。


「そうか、消滅があるのか・・・。場所の把握は出来ているよな?継続ダンジョンも、消滅ダンジョンも?」


「はい。それは、魔王ギルバードに把握をお願いしています」


 指名される可能性を先に教えられていたために、魔王ギルバードは緊張しながらも、しっかりと立ち上がって、魔王に深々と頭を下げてから報告を行う。


「大魔王様。魔王ギルバードです。ヒア殿からの依頼で、6か所のダンジョンは、領域には加えておりません」


 当初は、魔王を魔王様と呼んでいたのだが、自分の配下が、”魔王”と呼ぶことがある為に、魔王を束ねる者という意味を込めて、”大魔王”と呼ぶことにしている。当の魔王は、呼び名が困れば”魔王モノリス”で構わないと言っているのだが、魔王ギルバードも魔王カミドネも、魔王が同列になってしまうと違う呼称を要求していた。面倒になった魔王は、”好きに呼べ”と言った所、幹部会議で”大魔王”の呼称が採決された。


 魔王からの要望で、ダンジョンが復活したときに、開発と成長の余地が残るように、魔王ギルバートと魔王カミドネに領域の拡大を認めている。

 元のダンジョンがあった場所を中心に直径50メートルは新規魔王が最初に納める場所となる。

 領域の広さも、幹部会議と帝国とギルドからの人間を入れて決められた。魔王以外の者たちは、領域を残すことに反対を示したが、魔王が新しい技術や情報の入手できる可能性を潰すなという宣言が行われた。

 その為に、帝国からはティモンが呼び出されて、新生ギルドからはボイドが呼び出された。


 帝国が長年研究していた情報を提出した。

 それが、50メートルと決めた根拠になっている。実際には、ダンジョンが産まれたばかりの頃は、10メートルの範囲があれば大丈夫だという見解だったが、魔王から開発と成長の猶予を与えるために、50メートルと決まった。


「わかった。新しい魔王が産まれたら連絡をくれ、それから、勝手に攻め込もうとする者が出た場合には殺しても構わない」


 帝国と新生ギルドに通達を出せば、新しく産まれた魔王の討伐を行うことはない。実際に、既に通達を行っている。魔王が育って脅威になってしまった場合には、魔王ルブランが率いる者たちが討伐を行うと確約している。


「はっ」


 立ち上がった.、魔王ギルバードが跪いたのを確認してから、魔王はミアに視線を送る。


「ミア。皆に、楽な体制になるように伝えてくれ、それから休憩を挟もう。外にいる連中にも、休憩を伝えてくれ、1時間後に再開しよう」


 魔王は、司会を務めていたミアに休憩を与える事を伝える。

 休憩を考えていたタイミングで皆が頭を下げたことで、魔王は1時間の休憩を挟むことに決めた。外で待っている連中も、緊張している者も居る事が考えられる。その為に、報告とは別にすることを伝える。


「わかりました。外の魔王は、城の下層で待機させます」


 ミアとしては、外の魔王と従者は、四天王だけではなく、魔王カミドネや魔王ギルバートと比べても下に見ている。


「大魔王様。魔王たちは、緊張もしています。私たちが対応してよいでしょうか?」


 魔王カミドネが、魔王たちを案内して休憩を指示すると伝えるが、魔王は渋い顔をする。

 そして、何かを考えてから、恭順を示した魔王たちの休憩と休憩場所までの案内の指示を出す。


「カミドネとフォリとギルバードとコア以外で対応を行え。お前たちは、彼らと同格ではない」


 カミドネとギルバードは少しだけ驚いてから、深々と魔王に頭を下げる。

 従者として入場を許可されたフォリとコアも自分の主人である魔王が深々と頭を下げるのと同時に、魔王に向って跪いてしっかりと頭を下げる。


 魔王カミドネと魔王ギルバードは、深々と頭を下げて、魔王の言葉に従う。

 魔王の言葉を喜んだのは、魔王カミドネや魔王ギルバードではなく、彼らの従者として玉座に入る許可が出ているからだ。フォリとコアだ。二人は、自分の主が認められた事も嬉しいが、大切な存在だと言われたと思えたのが嬉しかった。

 そして、主を失う可能性が低くなったことを感じ取れたので、感謝とは違うが、安堵に似た感情が湧き上がってきた。

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