第四話 セバスと二人で


 緊急会議は閉会した。皆の戦意が強すぎて、少しだけ怖かった。

 それだけ、俺のダンジョンを大事に思ってくれていると、考えておこう。


「セバス」


 俺の部屋に場所を移動した。

 セバスが、着替えたいと申し出たので許可を出した。すぐに戻ってくるかと思った。戦装束の姿から、薄手のワンピースを羽織っただけの姿だ。正直に言えば、目のやり場に困る。セバスなら、ジロジロと見られたとしても文句は言わないだろう。男の矜持として、視線は動かさない。”見たい”が見ない。


「はい。魔王様」


「どこが、最初に動くと思う?」


「神聖国に攻め込む、カミドネだと考えます」


「カンウとヒアではないのか?」


「王国を混乱させるとは思いますが、戦闘にはならないと思います。モミジとミアが合流してからになるのでは無いでしょうか?」


 モミジとミアが率いる獣人族の集団は、王国内に居る獣人族を解放することを目的としている。

 奴隷になってしまった者も含まれるが、主には集落で王国兵や人族主義の者たちに怯えている者たちだ。その結果、王国の侵攻を妨げる結果になればいい。連合国のエルプレにあるダンジョンの攻略と同じで、失敗しても俺たちには大きな損失はない。それこそ、王国軍の兵が、俺たちが想定しているよりも強兵で、カンウとヒアとモミジとミアがやられてしまう場合には、取り返しが付かない損失だが、得ている情報では、大丈夫だと思える。


「わかった。皆からの連絡が入ったら教えてくれ」


「かしこまりました」


 カメラを駆使して、状況の把握に務める。


「セバス。王国が、カプレカ島を攻めるとしたら、何処からだ?」


 セバスが地図を出して説明を始める。


「そうか・・・」


「魔王様?」


「すまん。王国の連中が、帝国に入国して、城塞村からカプレカ島に攻め込む事ができると考えたのだが・・・」


 帝国の入国管理がどうなっているのか解らないが、国境を正式な手順で越えてきた王国民を捕えるようなことはしていないだろう。

 そうなると、帝国に入国して、城塞村に向かう途中で”道に迷う”可能性だってある。地図を見ていると、数か所で城塞村を通り抜けなくても、カプレカ島に到着できる抜け道があるのが解る。

 利用されても困る事はないが、抜けられても、数名から多くても十数名だろう。カプレカ島の戦力を考えれば、怖くない。


「え?」


「今までは居なかったが、今後も存在しないとは、断言ができない。よな?」


「・・・。はい」


「よし。セバス。二人で、城塞村からカプレカ島に入る場所に”ギミックハウス”を作るぞ、どうせ、動きはまだないだろう?」


「はい!」


「セバス。ボイドに連絡して、”ギミックハウス”が出来たら、ギルドからの許可を持つ者か、”ギミックハウス”を踏破した者にしかカプレカ島への入島を許可しないと伝えてくれ」


「かしこまりました。魔王様。どんな”ギミックハウス”にしますか?」


 面白いスキルが増えていた。罠にも使える者だ。少しだけポイントが高いうえに、運用のコストも多いが・・・。


 ポイントは大丈夫だ。

 文言の解釈も大丈夫だと・・・。スキルの罠は回避した。回避したよな?


「新しい罠が使えるようになった。コストが高くて、乱用はできないが、カプレカ島のギミックハウスには丁度いい」


「どのような罠なのですか?」


 セバスに、簡単に説明した。


「それならば、入った者を分断した上で、”悪意”に寄ってレベルが違う場所に誘導されるのですか?」


「そうだ。説明を読むと、”悪意”のレベルが同じだと、同じ場所に飛ばされてしまう。他にも、いろいろ制限があるようだ」


「”悪意”の実験は難しいのですが・・・」


「そうだな。まずは、作ってみるか?」


「はい!」


「”悪意”のレベルは5段階にするか・・・。スキルでは、10段階が進められているけど・・・」


「魔王様。10段階にして、下位と上位の区分を作ることはできませんか?」


「試してみるか?ダメだったら、壊せばいい。罠に使うポイントが無駄になるだけだ」


「はい」


 ポイントは、見た事がない桁になっている。

 最近では、”ポイントが使い切れなくなってしまう”ことを恐れ始めた。何か、制限があるのでは?

 ”全てがFになる”ではないが・・・。


 ポイントを表示する欄を見ると、残りは4桁か5桁。大丈夫だとは思うけど、寿命がないことを考えると、使える時に使っておく必要がある。配下に配布したポイントも合算されているからわかりにくいが、現在は1割くらいしか配布されていない。以前は、半分くらいだった。

 配下も増えたが、カミドネの配下は、カミドネダンジョンで賄えている。


 ポイントが保持されている場所が”数値”ではないかと考えた時に、怖くなった。

 既に、”4,294,967,295”を越えていた。”unsigned int”ではない。次は、”__int64long long”だが、さすがにまだ到達9,223,372,036,854,775,807していない。出来れば、”unsigned __int64long long”であって欲しい。18,446,744,073,709,551,615なら大丈夫だろう。全大陸を統一でもしたら・・・。


 多少コストが高くても、カプレカ島は守るべき場所だ。城塞村は、どうでもいいけど、俺たちが孤立していないのは、城塞村のおかげだ。カプレカ島を守るついでに城塞村も守れる方法を考える。


「魔王様。設定は、どういたしましょうか?」


「そうだな。”悪意”が高い者は、殺してしまおう。”悪意”が無い者は、ほぼスルーでいいだろう」


「わかりました。中途半端な者は?」


「最初は、簡単にして徐々に難しくて、モミジが単独で、突破ができる程度にするか?」


「モミジですか?」


「ダメか?」


「そうなると、殆どの者の突破が難しくなって、”悪意”が高い者と変わらないと思います」


「あぁ・・・。そうなると、ミアはダメだな。ヒア・・・。ここは、ラアがギリギリ突破くらいにするか?」


「それでも、1割くらいだとは思いますが・・・。わかりました。私が中途半端な者が通る場所を作ります」


「わかった。俺は、殺意がマシマシの罠を作る。本気で殺しにかかる罠を考えてみる。逃げられない状況が出来れば、あとは閉じ込めておくだけでもいいから、殺すのは簡単だ」


「はい!」


 セバスと新しいギミックハウスを作り始めて、2時間くらいが経過した。

 俺の方は、難易度調整がないので、早めに完成した。戻れない状況を作って、閉じ込められたことが解らない演出をしてから、通路や部屋を渡り歩くだけだ。最後のボスと言えるような個体を倒したら、”出口は入口のみ”と表示される。でも、入口は閉じた状態。どこかに、ギミックがあるのかと探し続ける。あとは、時間が解決してくれる。


 それから、二人で、モノリスを見ながら罠の設置を行った。


 モニターが明滅していたから気が付いた。セバスの・・・。正確には、魔王ルブランとのホットラインが明滅している。セバスが、内容を確認する。


「魔王様?」


 内容を確認してから、セバスが少しだけ困った表情をしている。


「どうした?」


「ボイドから緊急連絡で、王国のダンジョンバスターが国境を強引に突破したと連絡が・・・」


 俺の予想が悪い方に当たってしまったのを気にしているようだ。

 セバスたちが止められない者を強制的に排除するのは、帝国には難しいだろう。本人が、”非戦闘員”だと言っていても、魔王カミドネ程度の強さはありそうだった。この世界の順位は解らないが、それでも上位に位置するだろう。


「ん?ダンジョンバスター?恥ずかしい名前だな。それで、目的地は?」


 セバスが、”ダンジョンバスター”はダンジョンを討伐するための”チーム”だと教えてくれた。

 そのチームを率いているリーダーが王国最強だと言われている。強さを調べたが、ヒアでも余裕だ。それこそ、ラア兎人でも瞬殺は難しいが、勝てるだろう。その程度で王国最強?なにかの、プロパガンダか?7つのボールをあつめるマンガに出てきた、人類最強と同じ扱いか?


「カプレカ島です」


「ははは。丁度よかったな」


「え?」


「新しいギミックハウスのモルモットが向こうから来てくれた」


「そうですね。設置をしますか?」


「あぁ」


 パネルから、今まで設定した部分に問題がないか確認をしてから、反映させた。

 カプレカ島の入口を入ると、”悪意”を感知する罠が発動する。その後に、”悪意”に対応した場所に飛ばされるようになる。


 あっ身内が通過できる罠も考えないと・・・。

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