第三章 魔王と魔王

第一話 魔王


 この世界に転生?してから、2年が経過した。

 転生した直後は、軽くパニックになり、そして”モノリス”の理不尽な説明に憤慨していた。


 しかし、しかしだ!俺は、難局を乗り切った。


 もう大変だった。

 大群だぞ。こっちは、俺を含めて数名だ。それなのに、数万の軍とか・・・。ありえないだろう。


 でも、ありえないのは、数だけではない。俺を攻めてきた連中が、俺の想定よりも愚かだったことだ。

 外壁に作ったトラップを作動させないと、気がすまないのかと思えるくらいに、罠を作動させる。


 外壁の門のギミックも、突破が無理なのでは?と思えるほどだ。まず、頭を使わない。頭突きをするという意味ではなく、知恵がない。脳筋の集まりなのか?それでも、軍を率いているのか?


 見ていても楽しくない。

 必死にやっているのはわかるけど、必死に壁を壊しても意味がないのになぜ気が付かない。修復する壁を見て、なぜ更に攻撃を行う。それで突破できると本気で思っているのか?


 全部の罠を発動して、いちいち騒ぐ、それでいて、謎解きは、最初から諦めているように見える。

 右往左往ではない。力・・・。武力があれば、他は何もいらないと思っているのか?軍師は?考える頭は?全員が、こんな感じなら、俺は今の状態で十分に生き残れる。多分、魔王城(セバス命名)まで攻めて来られない。


 それから、ギルドが交渉してきた。

 人族を優遇している国に総本部があるらしいが、よくわからない。別に、気にならない。俺たちに友好的な組織なら敵対しないだけだ。

 セバスを含めた上層部が俺の変わりに、うまく新生ギルドと交渉して、いい距離感で付き合いができている。と、報告を受けている。


 俺は、この部屋と隣の部屋で過ごしている。引きこもりだ。


 でも、この魔王城の主だ。世間では、魔王ルブランの名前が広がっている。

 俺の身代わりは、セバスだけど、セバスは嬉々として”魔王ルブラン”の役割を演じている。


 最初に助けた(ことになっている)獣人族の一部は、俺の存在を知っているけど、それ以外はセバスが魔王だと信じて疑っていない。


 獣人族は素晴らしい。

 攻めてきた帝国の奴らが奴隷として連れてきていたのだが、帝国の軍人よりも、旧ギルドの奴らよりも、連合国の奴らよりも、頭を使うことを知っている。知恵がなければ知恵を身につける。武力がなければ、武を磨く。

 異世界ものラノベでは、獣人族は基本的に脳筋の印象で書かれているけど、俺のところに居る獣人族は全員とは言わないけど、ほとんどが脳筋とは違う知を求める傾向が強い。もちろん、武を求める者も居るが、それでも”パワー”や”モアパワー”といった脳筋の話は聞かない。どうしたら、強くなれるのかを本気で考えて訓練をしている。


 俺が取り寄せた本を読んで、自分たちなりに、咀嚼して羊皮紙に写して回し読みをしている。らしい。メアが嬉しそうに報告してくれた。「魔王様のおかげだ」と必ず最後には頭を下げる。


 俺に打算があって実行した事だと彼らには伝えたのだが、それでも感謝されてしまった。

 帝国は、俺を殺すために、数千の獣人を送り込んできた。しかし、俺を殺せなかっただけではなく、俺のためなら死んでもいいという数千の戦士を与えた。そして、実際にはそれだけではなく、自国の兵士を万単位で失った。

 新たに作った村の代官となった帝国の隊長だった者から、かなりの数の貴族家が取り潰されて、帝国の風通しが良くなったと言われた。


 新生ギルドの代表になっている男は、何度かセバスと会談の場を設けている。

 その席上で、島・・・。カプレカ島と名付けたが、島での制限を解除していった。もともと、ギルドに全部任せるつもりだったのが、セバスたちが反対したので、島の運営は元奴隷たちが行うことになった。魔王ルブランからの挑戦のような感じにしてしまった。


 魔王ルブランからの挑戦は、思っていた以上に盛り上がった。

 作ったダンジョンは、毎日のように攻略を試みる者たちで溢れかえっていた。


 メアが一人で居るときに、不思議に思って聞いたことがある。


「メア。カプレカ島のダンジョンで疑問があるが聞いていいか?」


「はい。魔王様」


 そんなに目をキラキラさせなくても・・・。


「あぁカプレカ島のダンジョンは、魔王ルブランからの挑戦だと新生ギルド・・・・。城塞村では考えているのだろう?」


「はい。ダンジョンの攻略後に、ルブラン様たちに挑戦する権利が与えられる事になっています」


「そう、まずは、それだ。詳細な説明は、ルブランから聞いたけど、魔王ルブランと配下衆が相手なのだろう?そこに、メアやヒアも入っているよな?」


「はい。前座の前座ですが、第一層は、私たちの中から10名が選抜されて、同数で相手をします」


 同数?

 あぁ侵入者と同数という意味だな。


「危なくは」「大丈夫です。魔王様が作られた訓練場と同じ仕組みを組み込んだ場所です」


 あぁ即死以外なら、死なない罠だな。

 即死もほぼありえない。即死級のダメージを受けたときに、罠の対象範囲からはじき出される仕組みになっている。


 たしかに、それなら安全ではあるけど・・・。


「それに、私たちが負けても、四天王様が次に戦って、次は高次元の魔物たちで、最後にルブラン様です」


 それは決められた事で、問題ではない。


「それはいい。でも、メアもヒアも四天王もルブランも、カプレカ島で普通に・・・。生活はしていないけど、過ごすよな?」


「はい」


 ”それが?”みたいな顔をしないでほしい。


「あぁそれで、ギルドの奴らや、ダンジョンを攻略しにきた奴らと戦いにならないのか?」


「あぁ・・・。それは・・・」


「なんだ?」


「彼らは、ダンジョンを攻略するつもりは無いのです」


「ん?奴らは、ダンジョンを攻略して、俺を殺すのが目的ではないのか?」


「そういう人も居ますが、その手の人たちは、カプレカ島に入る前に、始末しています」


「ん?始末?」


「はい。城塞村で対応しています。カプレカ島に入れたとしても、ダンジョン内で行方不明になるか・・・」


「あぁ前に、ルブランから聞いたな・・・。それで、ダンジョンを攻略するつもりが無いとは?」


「言葉通りです。私も、彼らから聞いたのですが、カプレカ島のダンジョンは、適度な難易度で、稼がせてもらえるので、潰してしまう方が損だと考えているようです」


 なるほど・・・。

 確かに、俺を殺せば、その時点での財貨は手に入るだろう。

 しかし、入手した財貨は、それ以上は増えない。

 それだけではない。確かに、魔王を敵視している者たちからは絶賛される可能性はある。しかし、それ以上に稼ぎ場所を失った者たちからの非難は巻き起こるだろう。


「そうか、倒して一時の金銭を得るよりも、安定して稼げる場所がいいのだな」


「はい。魔王様が作られたダンジョンは、他の場所以上に質がいいと評判です。タアやヤアたちが他の国にあるダンジョンに行きましたが、稼げなかったと言っていました」


 そうか、問題が無いのならいい。


「わかった。メア。勉強中に悪かったな。また、新しい本が入荷したら知らせる」


「ありがとうございます!私も、魔王様とお話ができて光栄です。私たちは、魔王さまに救われました。本当に、ありがとうございます」


 言葉は違うが、感謝で締めくくられる。

 メアの頭をなでてから、俺は自分の部屋に向かう。


 そして、連合国方面に作った”ギミックハウス”の状況を見学する。


 なぜか、わからないが・・・。

 俺が設定したギミックハウスは人気がない。セバスも、モミジもナツメもカエデも、メアやヒアまでも理由がなんとなくわかっている雰囲気があるが、口を閉ざす。

 ポイントの獲得比率ではダントツのトップだが、そもそもの挑戦者がすくない。だから、獲得ポイント合計ではダントツで低い。


 他の者たちが設定したギミックハウスと、ドロップ品は同じレベルだし、使っているポイントにも差がないのに、何故かわからない。


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