第十六話 魔王の所業?


「魔王様」


「ルブランで良い」


 魔王は、マイマスターの称号だ。代理とは言え、”魔王”と呼ばれるのは避けたい。

 それに、魔王と呼ばれて良いのは、マイマスターだけだ。


「はい。ルブラン様。食料や毛布をありがとうございます」


 子どもたちが揃って頭を下げる。

 代表は、狐人族の少女のようだ。人族が居るのに、珍しい。


「お前たちは、真命はあるが、呼び名が無いようだな」


「え?真命?で、ございますか?」


 真命を知らないのか?

 奴隷だからなのか?


「知らぬのなら、それで構わない。貴様たちは、300名だったな」


「はっ、はい」


 緊張は、”しょうがない”と、考えるしか無いようだ。


 マイマスターが、この子供たちの真命を把握されて、契約をされると、この子どもたちはマイマスターの眷属になり、私と同列になる。

 ポイントにはならないが、マイマスターの眷属にしておいて、身の回りの世話をさせる人員にしても良いかもしれない。地上に出ている檻はカモフラージュにして、地下の住処を彼らの居住区にすればいい。地下で、マイマスターの部屋に繋がるようなら、眷属にするのは必須だな。


 眷属にしない状態で、真命が漏れてしまうと、マイマスターの近くに、支配された者が存在する危険が産まれる。マイマスターを害する可能性が有る者は、排除しなければならない。ポイントは、別で稼ぎ出す方法を考えればいい。

 我が、どこかの国に赴いて、住民を攫ってきてもいいだろう。


「ふむ・・・」


 考え込んでいると、子どもたちの表情が硬くなっていく、縋るような目線になっている。

 そうか、人数を聞いて、多いと判断していると考えたのだな。


「部屋は足りそうか?」


「え?」


「ここに来たということは、部屋が並んでいる場所に足を踏み入れたのだろう?」


「はい。ご指示に従って、こちらに来ました」


「我からの施しがいつまでも続くと思うな」


「はい、もちろんです。私たちは、ルブラン様のご指示に従います。なので、できましたら、妹たち・・・。年少者には、御慈悲を与えていただけないでしょうか?」


 子どもたちが、揃って、”お願いします”と頭を下げる。

 言い方が悪かったのか?何か、噛み合っていない。


「貴様たちは、何か勘違いをしているのではないか?」


「勘違いですか?」


「貴様たちを、殺すつもりはない。もちろん、死にたいと思っている者は殺す。ここに居たくないのなら、貴様たちが元居た場所に返してもいい」


「え?」


「まずは、首輪を外して、貴様たちが自立できるようにする。最終的には、保護する方の身の回りの世話を頼むことになるかもしれない」


 子どもたちの顔が驚愕に変わる。

 そんなに、保護されるのが嫌なのか?これほど、条件を出せるのは、マイマスター以外にはいない。


「ルブラン様。これは、奴隷の首輪で」


「解っている。我は、闇スキルがあり、奴隷の解除も可能だ」


 当然だ。

 我は、魔人だ。闇スキルがどういったスキルなのか、よく知っている。狐人の少女の首輪に少しだけ闇スキルを使ってみてはっきりとした。奴隷の契約を行った者は、大した力はない。最低限の拘束しかしていない。首輪が絞まるとか最低限で、最低の拘束だ。それで、事足りると考えているのかもしれないが、それなら、首輪という原始的な方法に頼る必要はない。

 闇スキルで、心の臓に楔を打ち込むほうが簡単だ。術者や術者が認めた者に逆らえない呪をスキルで刻むほうが、簡単に出来るだろう。そうしない、理由がわからない。首輪にして、所有権を主張するつもりなのか?それにしては、全員が同じ首輪ではあまり意味がない。


 それに、首輪に刻んでいる文様は、ほとんど意味がない。闇スキルを増幅する文様だが、奴隷契約はスキルの発動時には闇スキルだが、それ以降の増幅を行う文様は全くの見当違いだ。


 本当に不可解だ。


「ルブラン様。私たちよりも、年少者の首輪をお願いいたします」


「狐人の族長。ルブラン様にお願いをして、我らは、ルブラン様の御慈悲で生かされている身分なのだぞ」


「人族の少年。我は気にしない。それに、全員の奴隷を解除するつもりだ。奴隷のままで居たい者や、我の庇護下から出たい者は申し出るように、そうだな。明日までに意見をまとめよ。そこで、今後の話をする」


「・・・」


「どした?」


「ルブラン様。私たちは、殺される覚悟を持ってきました」


「死にたいのか?」


 皆が一斉に首を横にふる。


「それでは、何か不満が有るのか?」


「不満など、ありません。ただ、私たちは、奴隷や孤児です。ルブラン様のお役に立てるのか・・・」


 それを考えても意味がない。

 存在して生活するだけで意味が産まれている。しかし、子どもたちに告げていい内容ではない。眷属になったら、身体能力の向上やスキルの取得を行って、マイマスターの為に侵入者を撃退すればいい。簡単な話だ。


「貴様たちが考える必要はない」


「もうしわけありません」


「気にするな。貴様たちで話し合いをするときに、畑を作ったことがある者や、狩りの経験がある者や、料理の経験がある者を、まとめておけ」


「はい。わかりました」


 子どもたちを元いた場所に戻す。マイマスターが準備した罠だ。


 子どもたちに、マイマスターの偉大さを伝えられないのは残念だ。子どもたちが眷属になれば、自然とマイマスターの偉大さや素晴らしさが解るのだろう。その時を楽しみに待つことにしよう。そうなった場合でも、筆頭は譲らない。


---


 私たちは、魔王様・・・。ルブラン様に謁見した。

 すごく綺麗な人だった。種族は、人族なのかな?魔王様だから、魔王族?よくわからないけど、すごく綺麗な女の人だ。


「狐人の族長」


「え?あっ。何?」


「どう思う?」


「え?ルブラン様?」


「あぁ」


 人族の族長が、何を期待しているのかわからないが、私たちは、ルブラン様に生かされている。

 それは間違いではない。


「まずは、ご命令を実行する」


「それは?」


「部屋をしっかりと配分する。それから、農家と猟師と料理が出来る者を分ける。その後で、皆でお風呂に入って綺麗になる」


「最後は必要なのか?」


「明日かわからないけど、ルブラン様が、奴隷から解放してくれるとおっしゃっていた。そのときに、綺麗な状態でお側に行ったほうがいい。汚れた状態で、ルブラン様を汚してしまったら問題だ」


「そうだな。お風呂は、僕も初めてだから、わからないけど、説明書の通りにやってみよう」


「そうだね」


 私たちは、難しい話はわからないけど、ルブラン様に求められている内容は理解が出来た。

 私は、農家では無かったけど、狐人族で農家だった子も居る。あと、ルブラン様に言われていないけど、農家になりたい子も別に募っておいたほうがいいかもしれない。何か、役目があれば、年少組も安心するかもしれない。

 仕事があれば、殺されない。


「おい!人族の族長!狐人の族長!ちょっと来てくれ」


 狼人の族長が、外で子どもたちをまとめてくれているはずだ、私たちを呼ぶのは、何か理由があるのだろう。


 人族の族長と地上に戻ると、中央に年少組が集まっている。箱が増えている?それに、なにやら騒がしい。

 ルブラン様から、何かが届いたのだろうか?


「これを見てくれ」


 狼人の族長が私に見せてきたのは、服だ。それも、綺麗な服。下着もある。サイズが違う物で沢山・・・。


「ルブラン様から?」


「あぁ”魔王から”とご署名がある」


 人族の族長が、綺麗な紙を渡してきた。

 そこには、300名分の衣服と下着。サイズ別に5着用意したと書かれている。


 もしかして、私たちに人数を聞いたのは、服を調達するため?

 年少組の服もある。


 着替えをしっかりする事や、お風呂上がりに、しっかりとタオルで吹くことが命令されている。そして、着ている物に愛着や思い入れが無い場合には、焼却処分をするから、まとめておくように書かれている。それ以外にも、服や下着は、常に綺麗にしていることなどが書かれている。洗濯を行えとも書いてあることから、洗って綺麗にしてまた着ていいと言うことなのだろう。


 着替えが渡されたってことは、私たちは、本当に、この場所で・・・。生きていていいの?

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