第十三話 【奴隷】


「お姉ちゃん!」


 寝ないようにしていたのに、いつの間にか眠ってしまった。

 魔王城の檻に捕らえられて、それから・・・。美味しいパンと、美味しい干し肉を食べて、綺麗なお水を飲んで、妹と毛布に包まって・・・。妹を抱きしめていた。離れないように、妹の体温と心の音を聞いていた。


 村を襲われてから、初めてゆっくりと寝たかもしれない。


「どうしたの?」


 飛びついてきた妹の頭をなでながら、周りを見る。

 半分くらいはまだ寝ている。


「ううん。お姉ちゃんと一緒に居られて嬉しいだけ」


 妹の言葉が嬉しかった。私も同じ気持ちだ。


「そうだ。干し肉を食べる?」


「うん。でも、お姉ちゃん。昨日の場所に、またパンと干し肉とお水が来ているよ」


「え?また?」


「うん。人族の・・・。お姉ちゃんが起きていたら連れてきて欲しいと言っていた」


「そう、ありがとう」


 妹の頭をなでて、食べなかった干し肉を渡そうとしたら、”お姉ちゃんの”と言われてしまった。


 昨日の場所に向かうと、”ざわざわ”していた。


「どうしたの?」


「お、狐人の族長」


 そう、私たちは、年長者たちの集まりを、族長会と呼んでいる。

 名前が無い私たちは、種族名で呼び合うしか無い。自分たちで、名前を付けて、首輪が絞まるのが怖い。首輪が絞まったら、夢から覚めてしまう気がするからだ。他の者も同じような考えで、考えたのが族長会だ。


「なにがあったの?」


「見て欲しい」


「え?」


 昨日と同じ場所に、昨日以上に置かれた箱が存在していた。


「狐人の族長。こちらの箱を見て欲しい」


 箱の中には、果実?が大量に入っている。

 瑞々しい、美味しそうな匂いだ。村に居た時でも、これほどの果実は見たことがない。


「果実?毒は?」


「ない。年少者が、我慢が出来なくて、食べてしまった。すまない。人族の族長として謝罪する。年少者には罪はない」


「私は、別に罰を求めない」


 周りを見ると、他の族長もうなずいている。

 そうか、私が最後だったのだ。それで、私以外も、罪はないと考えたのだろう。当然だ。私も、我慢が出来ない。年少者が、我慢が出来なくても当然だ。


「狼人の族長。何やら、変わった物が出来ていると言っていたが?」


「あぁ人族の族長。俺たちが居た場所の近くの檻が扉に変わっていた。好奇心に負けて、扉を開けてみた」


「開いたのか?」


「開いた。階段になっていて、降りてみた。そこは、広い部屋になっていた。地下に降りられる階段と、扉が2つあった。怖くなって、そこで帰ってきた」


 狼人の族長が、簡単に説明してくれた。部屋が出来ている。やはり、魔王城なのだろうか?でも、部屋が必要なのか?何をする為の部屋なのか?


「狐人の族長。どう思う?」


 なぜ私に聞く?


「え?他の族長は?」


 人族の族長に話を聞こうとすると、猫人の族長が、私の前に出てきた。


「あのね」


「はい」


「族長での意見を統一しないとだめでしょ?」


「えぇ」


 意味がわからない。

 狼人の族長が、うんうん。言っている。村に居た時には、狼人は、権力志向でどちらかと言うと”俺の言うことを聞け”的な発言が多かった。人族の族長も、読み書きが出来るなら、人族の族長が決めてもいいと思う。


「だからね。僕は、キミの意見を聞きたい」


「私?」


「そう、狐人の族長。僕は、猫人族は、君の下につこうと考えている」


「ん?え?は?えぇぇ?!」


「大きな声を出さないでよ」


「そりゃぁびっくりするよ。なんで?私?狼人族や人族や羊人族も居るのに、なんで?」


「うーん。僕だけの意見ではなくて、猫人族で話し合った結果だよ」


「だから、なんで私なの?」


 猫人族の族長は、僕と言っているけど、女の子だ。


「簡単に説明すると、他の族長も気がついていると思うけど、まずは狐人族が多い」


 それは、間違いはない。

 私もだけど、狐人族の多くが捕まった当初から、みんなで食料を分け合っていた。病気になった子を中心して守ったことがある。大丈夫ではないと思っても、大丈夫だと励ましあった。泣き叫ぶ子が居ても、年長者が代わりに叩かれたこともある。でも、そんなことは当たり前で、他の種族でもやっていることだろう。私たちを大人が守ってくれたように、私たち年長者が年少者を守る事が正しい。


「それは・・・。でも・・・。捕まった人数が多かっただけではないの?」


「それは違う。狐人族みたいに、皆を守ってやれなかった」


「え?」


 狼人族や羊人族も、猫人族の族長に同調する。

 人族の男の子に目線を向けると俯いてしまう。人族の男の子は、孤児院から連れてこられた。私たちとは事情が違うだろう。


「わかった。でも、族長会議は今まで通りでいいのよね?」


「それは、あとで話し合おう。今は、狼人の族長が言っていた部屋に関して、話をしよう」


 人族の族長が、話し合いを提案してくれて、話が元に戻った。それに、皆にも早くしたい理由がある。


「そうね。私たち族長の半分で狼人の族長が言っている部屋を見て、残り半数で食料を分けると言うのは?」


 私の提案が、その場で採択された。

 そして、提案が通って、半数はパンと果実を渡されて、部屋を見に行くことになった。

 私と猫人と狼人と人族の族長だ。残りの5つの種族の族長が、食料を分けることになった。それから、種族の人数が10に満たない種族は、狐人族が預かることに急遽決まった。私の考えではないが、他の族長がまとめて欲しいと言ってきたからだ。妹を呼んで、他の種族と仲良くするように、他の年長者に伝えるようにお願いした。


 食べ物を受け取って、美味しい果実を食べてから、部屋を見に行く。

 狼人の族長が先頭を歩いていく。


「ここだ」


 たしかに、ドアが出来ている。狼人の族長の話では、最初から有ったわけではないようだ。寝て、起きたらドアが出来ていた。


 どうやら、狼人の族長が先頭で入るようだ。次に私で、猫人、人族と続く。


「狐人の族長。君、文字が読めるよね?」


 後ろから、人族の族長が私に質問をしてくる。


「え・・・。うん。全部ではないけど、読むことは出来る」


「そう・・・。やっぱり、君。村長の娘さん?」


「・・・。うん。村民を守る事が出来なかった・・・。ダメな村長の一族・・・」


「あっごめん。僕は、そんなつもりはない。狐人族が、君を中心にまとまっているし、君の指示を皆がしっかりと守っているから、すごいなって思っただけで・・・。君をけなしたり、責めたり、そんな気持ちじゃないよ。本当だよ。もうしわけない」


 必死な様子に、少しだけ気分が和らいだ。


「ううん。いいよ。私も、少し・・・。言い過ぎた」


「よかった」


 真ん中にいた猫人の族長が笑顔になっている。


「人族の族長。必死だね」


「え?」


「ここだ」


 ドアを開けて、歩いていたら、前を歩いていた狼人の族長が後ろを振り向いた。

 左右に通路があって、左右のどちらにも、扉が付いている。正面はさらに下に降りられるようになっている。


「え?」


 私は思わず声を上げてしまう。

 人族の族長も文字が読める。不思議な表情をしている。きっと、私も似たような表情をしているのだろう。


「人族の族長。あれって、あれですよね?」


「そうだね。でも、こんな所に、それに、”子供たちへ”と書かれている。僕たちのことだよな?」


「おい。二人で納得していないで、説明してくれ!」


 狼人の族長が、人族の族長に少しだけ大きな声で話しかけます。


 人族の族長は、私を見てうなずきます。どうやら、私に説明をして欲しいようです。確かに、狼人の族長は人族の族長に聞いているのですが、私が答えたほうがいいような気がします。


「右側は男の子用の”お風呂”と書かれていて、右側は女の子用の”お風呂”と書かれています。両方に、”子供たちへ”と書かれていて、自由に使って良いと書かれています」


「”お風呂”?水浴びの場所か?地下にも、何か書かれているよな?」


 ”お風呂”ではなく、地下二階に繋がる階段に向けられている。

 地下二階に降りる前に、”お風呂”を調べることになった。

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