第十一話 【帝国】七番の目


「殿下!なぜ?」


「何故だと!貴様!何故と聞くのか!貴様が、自分が何を言ったのか解っているのか!」


「殿下。自分は、自分の権限で、撤退を進言いたします。この魔王城は、事前の準備をしていない状態で突破ができるほど、甘く有りません」


「門までの通路を見つけた手腕を認めれば、撤退だと!考えもしないことだ」


「攻城兵器も、カタパルトを1基しか持ってきていません。先程から、岩が門に当たって砕ける音だけで、門に被害が無いように思えます。殿下。あの門を突破するためにも、帝都に戻られて」


「うるさい!貴様は、俺に、負けを認めて、逃げろというのか!」


「殿下。それは、違います。情報を持ち帰るのも立派な戦果です。今までにない魔王の情報です」


「うるさい。情報なぞ、何の役に立つ。罠の情報か?15番が罠を食い破ると宣言している。貴様たちが言う情報など、力の、そう、絶対的な力の前には無意味だ!罠なぞ、食い破ればいい。俺たちは、帝国の名誉を傷つけない」


「・・・」


「門を見つけた功績は認めてやる。後方で、後背を狙う者が現れないか監視していろ。帝都にて、貴様の罪を裁く」


「はっ。森を出た所で、輜重兵が野営地を構築しております」


「わかった。貴様は、貴様の部下を率いて、森の出口を死守せよ」


「かしこまりました」


 頭を下げて跪く。

 臣下の礼を取る気分ではないが、最低限のマナーは守る。


「解ったのなら、出ていけ、ここは貴様たちのような、腰抜けは必要がない」


 殿下から言われるのなら、従う気持ちにもなれるが、15番隊の副隊長から言われても、従う必要はない。


「下がれ」


 殿下からの言葉を受けて、頭を上げてテントを出る。

 15番隊の副長の見下すような表情には気分が悪くなるが、殿下から言われたのなら従うしか無い。


 殿下は、”貴様の部下を率いて”とご命令された。

 命令に従うことにする。


 自分たちに割り振られたテントに入る。

 部下たちが心配そうな表情で俺を迎える。


「この場所を引き払う」


「撤退ですか?」


「いや、7番隊の・・・。この部隊だけが、森の外まで撤退だ」


 部下たちに落胆の色が見える。

 どう見ても、撤退が正しい選択だ。


「殿下は?」


「門への攻撃を続行するようだ」


「それを、お許しに?」


「撤退を進言したが・・・」


「わかりました。撤退の準備は始めています」


「悪いな。少しだけ、7番の目を頼む」


「・・・」


「殿下をお救いできる可能性がある以上。ここに残る」


「ならば!」


「だめだ、この場に残るは、自分と・・・」


「わかりました」


 部下たちは、撤退の準備を始めているが、どこか納得しきれていない雰囲気がある。


 森の外まで移動できれば安全だろう。輜重兵はすでに撤退させている。必要な物資は、15番隊に渡してある。どうせ、食いつぶすつもりなのだろう。俺たちが裁かれると聞いたときの、奴の表情から読み取れる。食いつぶした物資を、俺たちが着服したとでも訴え出るのだろう。


 部下たちは迅速に作業を行った。

 私は、持って産まれたスキルを使って、殿下を見守ることに決めた。命令に背く行為だと解っていながら、やはり殿下を・・・。


 私のスキルは、気配を極限まで薄くするスキルだ。潜入が出来たり、相手の懐に入ったり、聞き耳を立てることが可能だ。防御の結界が作られている場合には、スキルが効かなくなってしまうが、そんな高価な者は、帝都でも一部の者しか使っていない。それも、ごく狭い範囲でしか使えないために、それほど驚異には感じていない。


 部下たちが、陣地を離れて、森に入っていく、最低限の食料だけを持っているが、輜重兵には多めに食料を持たせているから問題にはならないだろう。私は、気配を遮断して、門の攻撃を行っているカタパルトまで移動する。

 使っているカタパルトは、15番隊が持ってきた物で、最新の物ではない。数世代前の時代遅れ物だ。最新のカタパルトなら、連続使用が出来るのだが、この型では休ませる時間が必要になる。岩の大きさにも制限がある。形を揃える必要もある。

 石球は、100個近く持ってきたと聞いていたが、すでに30個近い球を門にぶつけているようだ。


 傷でもついていれば、まだ可能性を論じられるが、30の石球を放って、どのくらいの命中率なのかわからないが、ある程度の石球は命中しているのだろう。それでも、傷が一つも付いていない。これでは、残りを放っても、門が開くとは思えない。


 音だけは激しいが、何も効果がない。

 もしかしたら、俺たちが門までの道を見つけたことで、焦った15番隊が殿下に何かを吹き込んだかもしれない。それで、考えを変える殿下ではないと思うが・・・。


 狙いが外れた、石が壁に当たれば、壁は傷が入る。

 門ではなく、壁を狙えば、崩せたかもしれない。落とし穴の突破に使ったように、橋を使えば、突破出来る可能性が有るのに、15番隊はやはり脳筋なのだろう。それとも、罠を恐れているのか?


 もうすでに、カタパルトの石球がなくなってきている。

 15番隊の隊員たちが、奴隷を連れ出して森に向かっている。石の調達をしてくるのだろう。


 門には、傷が付いていない。

 これだけ攻撃して、傷一つ付いていない状況を見て、違う方法での攻略を考えないのか?


 魔王城から、大きな音がした。

 殿下たちもテントから飛び出してきた。


 門に隙間が出来た。

 門が開いた?


 殿下の命令は聞こえないが、15番隊が整列しているところを見ると、門を15番隊がこじ開けるようだ。自分たちが攻撃に使った岩をどかさないと前に進めない状況なので、妥当な選択だ。


 しまった。殿下に説明していなかった。

 門が、外開きだった場合に、大きさが一つの罠になってしまっていると、お伝えしなかった。


 15番隊も、そのくらいは気が付きそうな事だと思っていたが、扉の前にある岩を退けていると、門が無慈悲に開いてしまった。予想通りに外開きだ。そのまま、数名を押す形で門が開いた。幸いなことに片方だけだったので、全員ではないが作業していた奴隷が門に押される格好で、落とし穴に落ちた。落とし穴の深さから考えて、生きているとは思えない。


 反対側の門はそのままにして進むようだ。適切な処置だとは思えないが、15番隊では対処が出来ないだろう。


 門の中に門があるのか?

 15番隊の連中が叫んでいる声しか聞こえない。


 殿下たちが、先に進んだら、後を追えるのだが・・・。あの狭い場所では、気配を消しても見つかってしまう可能性が高い。


 どうする?

 もう少しだけ様子を見ていよう。殿下が前進しないのなら、殿下は無事だ。

 あの位置には、罠など無かった。魔物の襲撃はわからないが、門をあれだけ攻撃されていて、魔物の一匹も出してこないことを考慮すれば、魔王城の中に進まなければ、魔物はいないと考えていいだろう。


 やはり、殿下は前進されるのですね。


 隊長・・・。殿下をお守りいたします。


---


 俺は、森から出た野営地の入り口で、森の方角を見ている。


「・・・」


「どうぞ?」


 え?

 たしか、ギルド・・・。


「大丈夫ですよ。輜重兵の皆さんが配っていいらっしゃったスープです。身体が冷えてしまいますよ?」


「あぁ」


 スープを受け取る。

 でも、俺が考えてしまうのは・・・。


「輜重兵をまとめていらっしゃった隊長さんのことですか?野営地にはおられないようですね」


「あの人は、別行動だ」


「そうですか、殿下のお命をお守りしているのですね」


「なっ」


「今の帝国は、お守りに値する・・・。いや辞めておきましょう」


 答えられる質問ではない。

 俺たちもわかっている。第七番隊は、裏側を覗き見ることが多い。


「・・・。助かる。ギルドは、この魔王をどう見ている?」


「ふふふ」


「どうした?」


「先日も、同じ話をとある方ともしました」


「・・・。そうか・・・。その人には、なんて答えた?」


「”驚異”ですね。まだ正式には決まっておりませんが、ギルドは”魔王”に敵対しないと宣言をします」


 想像以上に、”悪い”答えだ。

 俺たちも、共存できる相手なら共存を考えるが、陛下や殿下たちは共存を望まないだろう。我ら、7番隊は攻略に反対しても、多分・・・。


「ありがとう。あの人が帰ってくることを、祈っていてくれ」


「わかりました。借りもありますので、帝都でお会いできると、信じております。どのような形であろうと・・・」


 どこにでも居るような風体だが、どこにも居ない雰囲気を醸し出す。

 不思議な人物だ。話し方や声から、男性だと思うが、後から考えると女性だったかもしれない。


 ふぅ・・・。

 スープは、どこで飲んでもスープだ。

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