第十四話 整理


 帰路は、いろいろ考えながら歩いている。主殿は・・・。


 クロトとラキシを、主殿が送ってくれることに決まった。


 スサノとクシナのスキルを調整したいと言われてしまった。

 その都合で、クロトとラキシのスキルが必要になってくるらしい。怖くて、それ以上は聞けなかった。聞いた方が、ギルドとしては正しいけど、聞くのが怖かった。


 私の表情を読んで、主殿が簡単に教えてくれた。


 簡単に言えば、クロトとラキシが持っている”眷属”の繋がりを、”横に広げる”らしい。

 今までは、私が中心になって、クロトとラキシとスサノとタシナに繋がっていた。これを、眷属同士でも繋がるようにしてくれるらしい。


 スキル”念話”を、付与して眷属同士でも会話が成立するようにしてくれるようだ。

 私では、数十メートルが限界だけど、スサノとタシナを経由すれば、数キロの会話が可能になる(らしい)。


 あとは、クロトとラキシが持っているギルドの情報を、スサノとタシナにも共有しないと、”問題になってしまう可能性がある”と言われてしまった。


 どうやって送ってくれるのか聞いたら、主殿の眷属がクロトとラキシを背中に乗せて飛ぶようだ。ライの分体が、クロトとラキシを落ちないように固定してくれるらしい。見なければ問題にはならない。そう、知らなければ、知られなければ、見られなければ、大丈夫だ。


 ギルドに帰還の連絡を入れたら、誰も居なかった。

 ギルドが空になって大丈夫なのか?


 大丈夫だから誰も居なくなっているのだろう。


 もしかしたら、アトスが居るから大丈夫だと判断を下したのかもしれないけど・・・。千明まで、出ているとは思わなかった。

 何か、問題でも発生したのか?


 主殿にも心配されてしまった。

 まず、主殿の家は、スマホの電波が届かない(場所が多い)。


 玄関か主殿の部屋でしか電波が届かない不思議な状態だ。深く考えない事にした。考えたらダメだ。電波を遮断する方法が構築されている。そんなことは・・・。多分、出来ている。盗聴も盗撮も不可能な状況で、主殿と一緒でなければ、あの家には辿り着けない。


 主殿が常識的で善良な心を持っていてよかった。

 復讐を考えているようだけど、”人”全体ではなく、主殿の将来を奪った人とそのスキルを与えた魔物に、矛先が向いている。


 だから、主殿を刺激しないほうがいい。

 私は、円香さんにも、ワイズマンにも、それこそギルド全体にしっかりと説明をしなければならない。


 主殿は”アンタッチャブル”だ。

 好奇心がマナーや常識を上回っているような人たちや、全体のために個が犠牲になるのは当然だというような人たちには、主殿を引き合わせないほうがいい。絶対に問題になる。

 それだけなら、その個人が対象になるだけだけど、”人”に矛先が向いてしまったら・・・。主殿が許しても、眷属たちが・・・。人類が滅んでも、私は不思議だとは思わない。

 日本を滅ぼすつもりで、核を打ち込んでも、主殿たちだけは生き残る未来が訪れても驚かない。


 帰り道は、パロットが案内してくれた。途中までだけど・・・。私が解る場所で、別れた。


 普段は、部屋の中で丸くなっているらしいけど、主殿もライも他の眷属も家に居たことから、久しぶりに外に出ると教えてくれた。

 どうやら、クロトとラキシにいろいろ教えてくれるのは、パロットの様だ。


 別れ際に、クロトとラキシをお願いしたら、可愛く鳴いて答えてくれた。


 人里を歩いていると不思議な気持ちになってくる。

 主殿の家は、不思議に満ちていたけど、あの光景が”あるべき姿”ではないのか?


 魔物が地球に現れてから、いろいろ変わってしまった。

 スキルを得た人は、得られていない人を蔑む。反対に、スキルを得ていない人は、スキルを得た人を野蛮人だと蔑む。

 もしかしたら、魔物たちを地球に放った者は、地球人の分裂を狙ったのか?


 主殿の存在は、光にも闇にもなる。


 魔物になってしまった少女。

 本名も教えてもらったが、主殿と呼ぶことにしている。


 主殿は、『復讐は”殺す”ことではない』と明言してくれた。

 世間に公表したい。それで、主殿を魔物にした者が”人”だとしたら、罪に問えるか考えて欲しい(らしい)。それで、罪に問えないのなら、自分が、その者を始末する。

 主殿は、人ではない。しかし、煩い政治家や偉そうに文句を言うだけの専門家や情報を寄越せとだけ言うマスコミの担当者よりも、人だ。だから、魔物にした者を人が捌けないのなら、魔物になってしまった主殿が始末する。魔物の世界は、弱肉強食だ。殺されても文句を言わせない。人がそれで文句を言ってくるのなら戦うまでとはっきりと宣言をしている。


 私は、主殿たちと人類が戦う未来は見たくない。

 出来れば、主殿を魔物にした人物を見つけて、人が裁かなければならない。主殿の手を汚させてはダメだ。


 人の正義を主殿に押し付けてはダメだ。


 主殿の事を考えていると、駅に到着した。

 改札を抜けて、ホームで電車を待つ。


 古い椅子に腰を降ろす。

 主殿は、この駅から学校に通っていたのだろう。そして・・・。これからも通うはずだった。些細な日常を、主殿の日常を、奪った愚か者が存在する。


 電車がホームに滑り込んでくる。

 誰も降りない車両に乗り込む。


 席は空いているが、なんとなく窓際に立っていたい気分だ。


 ドアが閉まり、電車が走り出す。

 ゆっくりとした速度から、徐々に速度があがる。


 窓からは、海が見える。

 主殿もこの景色を見ていたのだろうか?


 静岡駅まで約30分。景色を見ながら電車に揺られるのはちょっとだけ長く感じる。


 静岡駅に到着した。

 改札を出て、地下道に向かう。


 地下道を通り抜けて、呉服町交差点を目指す。そこから、呉服町通りを通って、七軒町通りを駿府城の方向に向かう。御幸通りを中町交差点に向けて歩く。大鳥居をくぐって浅間通りを通り、浅間神社に向かう。ギルドに行く前に、クロトとラキシとスサノとクシナと合流する。


 前に主殿と会った場所だ。

 主殿もライも覚えていたので、場所の説明は不要だ。それに、クロトとラキシなら迷わないだろう。私を探しながら来るらしいから、スサノもクシナも大丈夫だと言っていた。


 長い長い急な階段を上がって・・・。

 スサノとクシナを眷属にしたからなのか、しんどかった階段が楽に上がれるようになっている。走って上がるのは無理でも、上に辿り着いても息が切れない。今なら、蒼さんは無理でも、孔明さんには勝てそうだ。階段を上がる速度だけだけど・・・。


 ベンチに座ろうと思ったら、ライが既に到着していた。

 上を指さしたので、上を見たら、スサノとクシナが枝にとまっていた。


 クロトとラキシは、ベンチの下に居るようだ。


「茜さん」


「なんでしょうか?」


 ライが話しかけてきた。


「本日は、ありがとうございます」


 予想外の言葉です。

 お礼を言うのは、私たちです。


「いえ。私。私たちこと、主殿にはお礼を言わなければ・・・」


「違います。茜さんが来てくれて、マスターは、本当に楽しそうでした。私たちは、マスターの家族にはなれますが、”友”にはなれません」


 ライの伝えたいことが・・・。わかってしまいました。

 主殿には”友”と呼べる存在がいなくなってしまった。


「私も、主殿といろいろ話せて楽しかったです。これからの事を考えると、頭が痛いのですが・・・」


「それは、スキルの事ですか?それとも、眷属の事ですか?」


「それも・・・。含まれていますが、いろいろです。ライは、主殿が持つ情報が、世間からどう見えるのか知ったほうがいいかもしれないですね」


「え?」


「ライは、分体ですよね?」


「そうです」


「それなら、帰らなくても、大きな問題はないですよね?」


「そうですね。数日くらいなら大丈夫です」


「それなら、今日と明日。ギルドに来ませんか?私が皆に今日の報告をします。ライも、主殿に報告をする為にも、聞いておいた方がいいと思いませんか?帰りは、スサノかクシナに送らせます」


「・・・。そうですね。マスターに確認をしますが、スライムになってしまいますが、問題がなければ、お邪魔いたします」


「良かったです!」


 偶然ですが、説明要員を確保できました。

 主殿に筒抜けとなってしまいますが、些細な問題です。これで、謝って伝わってしまうことも、主殿たちが持っている情報や知識が世間とどれほどずれているのか伝わると思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る