『通りすがりの二人目』
「おのれ!」
アッシュがもう一度、『いかづち』、を使うが。
ヘレニウムは古戦場で、浄化の『天恵』と槌の合わせ技を放ったのと同じ要領で。
振るった槌に、『守護法壁』を纏わせて、その雷をいとも簡単に
その上で、ハンマーに移った雷の力を、振り払い、周囲に稲妻が散る。
再び愕然とするアッシュに。
「さて。剣士が剣を失ったら終わりですね。もう魔法使いに転職してはどうですか?」
少女ヘレニウムは、そこで少し微笑んでから。
あっさり踵を返す。
冒険者組合のエントランスに向けて。
「目的は達成しましたので、それでは」
「ぐっ……」
アッシュは、雷すらも通じず、刃が欠け、微妙に曲がってしまった剣を見つめ。
歯がみし、顔を歪ませる。
立ち去る少女に、何事か怒鳴り散らしたい衝動に駆られるものの。
余りの怒りで言葉が詰まって出てこなかった。
ようやく。
呟くように。
「ヘレニウムと言ったな。……覚えておけ。貴様は決して許さぬ!」
そう言って、豪華な見た目の剣を、これまた豪奢な鞘に納めようとして……。
納めることが出来なかった。
当然だ。
曲がっているのだから。
鞘の途中でつっかえる。
そこでさらに腹を立てたアッシュは、
その剣を地面に叩きつけるようにして、投げつけた。
がしゃん、と無様な音が大通りに響き渡る。
「……絶対に許さぬ!!!」
結局アッシュは、周囲のギャラリーが完全に引いてもその場に佇んだままだった。
居なくなったのはそれから暫くしてのことだという。
――――
一方。
そのギャラリーに混じり。
戦槌の神官と、金色の青年の戦いを、終始見守っていた風変わりな剣士が居た。
風変わり、と言うのは服装のことで。
とてもエスカロープでは見かけない――否、首都グラッセでも見かけないような奇抜な服装の剣士だった。
その服装は、別大陸の民族衣装のことで、ヒラリとした袖や、ふわっとしたズボン、巻いて着るタイプの上着とスカートに、最低限を守る軽鎧など、
剣士は。
そんな、白に黒裾、花文様の民族衣装を身に着け、
三つ編みを、ツインお下げにした黒髪の、まだあどけない感じの女の子だった。腰には曲線を描く大小二本の剣の鞘、いわゆる『
その女の子の名は、コムギと言う。
コムギは、二人の戦いを最初から見ていた。
ギャラリーが集まっていくのに流される形で、成り行きでその場に居たのだが……。
神妙な顔つきで。
今、冒険者組合に入っていく真っ赤な神官の背中を見つめて。
つぶやく。
「……あの人、最初からあの剣を狙ってたんだ……」
コムギは見ていた。
紅い神官が、アッシュの剣をハンマーで打ち払った時、インパクトの瞬間にさらに手首を曲げることによって、武器に伝わる威力を倍増させていた。
それで並みの剣なら折れただろうが、なまじ高級な業物であったために、微妙に曲がった程度で済んでいたのだ。
ただ、剣にとってはそれでも致命傷だ。
ヘレニウムがワザとそうしていたことを、コムギは見抜いていた。
「それに、さっき稲妻を払った技……。あの人なら、
そしてコムギは、冒険者組合の入り口に置かれた大樽の陰に隠れ、神官が出てくるのを待った。
こっそりと。
粛々と――。
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