『アプリコットの場合』
とある女性にキャンディを差し出してみたところ。
「え? 頂けるのですか? こんな高級そうなものを? わたくしに?」
「ええ、どうぞ」
「わぁ。ありがとうございます! では早速頂きます」
女性は、ぺりぺりとその場で包み紙を剥がし、お口にキャンディを放り込みます。
「あ、美味しい、です! すごい、どうやって作ったんですか?」
女性は私に作り方を聞きます。
が、たぶん、これは自分で作りたい、という意味ではなく。
ちょっとしたリップサービスですね。
笑顔いっぱいでお手本のような対応を自然にできる方なのでしょう。
女性は、私が作り方を話す間、相槌を打って真剣に聞いてくれました。
そして女性は、おずおずと言います。
「あ、あの、もしよろしければ、もう一つ頂けませんか?」
ごそごそと、カバンからきんちゃく袋を出す所作は、お金を払うつもりなのでしょう。
私は、もう一つ飴玉を差し出します。
「良いですよ。たくさんありますからお代は結構です」
「ええ? でも……!」
「どうぞお気になさらず。では」
私は、買います、結構です、のループが始まる前に、そそくさとその場から離れます。
そうして。
女性はペコリと頭を下げると、パタパタと走り去りました。
その先には、真っ赤な服を着た小柄な少女が居ます。
「ヘレニウム様、ヘレニウム様!」
ああ、なるほど。
ヘレニウムという方にも、私のキャンディを差し上げたい、そう思ったのですね。
お優しい方ですねぇ。
そして。
私はその結末を見ることなく、その場から立ち去りました。
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