『とある戦没者の結末』
「『
ヘレニウムは、卓越した技巧で。
槌が巨体に命中する瞬間。
凝縮した衝撃と陽光を『同時』に開放させる。
渦を巻く破壊の波に、太陽の浄化力が合わさり、その力は別次元のエネルギーに昇華される。
それは。
限界を迎えた真っ赤なハンマーが、溶け、折れ、砕け、消えうせる程の威力――。
ヘレニウムの放った技が、骸の巨体を砕き、破壊し、その先にある『
浄化の輝きと、槌の衝撃。
その二つを融合した、技術は、物理的には届かない心の先へも、その影響を発揮する――。
想像を絶する永い時間、残り続けた執念を、眩い光が包み込んだ。
金色の光柱が、天空へ向けて一本立ち上る。
……ネペタが戦死してから、幾星霜。
もうすでに、スィーリアも他界したであろう日々が過ぎ去っている。
そんな忘れていた現実を思い出すかのように。
縛られていた魂が、骸から、現世から、解放される。
その身体は、二度と蘇ることはなく――。
ネペタに共感し、従っていた骸達――戦場に満ちていたアンデッドも、土に返った。
地に降り立つ小柄な体躯。
真っ赤なカソックと、白金色の髪を靡かせて。
同時に、ひらひらと落ちてくる、一通の手紙。
それを、ヘレニウムは掴み取った。
既に、文字も滲んで読めないけれど。
この者が何を思って怪物に成り果てたのか、ヘレニウムには何となく感じることが出来た。
いや、むしろ、戦没者の願いなど、それほど種類は無い。
帰りたい、死にたくない。
帰りたい、帰りたい、帰りたい。
愛する者の所へ……もう一度。
数百何の時を経て、現実の時間を思い出した手紙は、ハラハラと崩れて粉々になっていく。
風に乗り、散って……それらはテッドの握る剣に吸い込まれるように消えて行った。
テッドが我に返る。
「……はっ!? ……オレ……」
テッドの目の前には、ボロボロの礼装で佇む、
「よかった……間に合ったのですね。もう、『天恵』を使う余力が無くなりそうで、どうしようかと、思い、まし……」
そのまま、神官は膝をつき、どさりと地面に倒れ込んだ。
「アプリコット!」
大剣を放り捨て、テッドは力尽きた少女アプリコットに駆け寄る。
「ごめん、アプリコット、俺が、ちゃんと力を抑えられなかったから……」
どさくさに紛れてアプリコットを抱きかかえるテッドの元に。
足音がして。
「阿呆ですかあなた」
「へ?」
テッドが振り返る
「力を抑えられないとか、考えることが根本的に間違っています! そもそも、あなたは大剣などに頼るからいけないのです。こんな、叩けば曲がる、打てば欠ける、5人倒せば使い物にならなくなるような刃物なんて、薄っぺらい鈍器と同じです……それならば、最初からハンマーをですね……」
なにやらお説教が始まってしまい、テッドはアプリコットを抱えたままどうしていいか分からなくなる。
すまん、ごめん、そうだな、そうかもしれない。
思いつく肯定文をローテーションさせ、ヘレニウムの言葉の嵐が過ぎ去るのを待った。
そして、ついに。
「……つまり、こんなものは唯のガラクタだということです!」
ヘレニウムが、その脚で、傍に捨てられた黒い大剣を踏みつぶそうとした時……。
「――アレ? あの、ここはどこ……ひぃぃ、死ぬぅ!」
「へ?」
「……」
『目覚めた』漆黒の大剣が悲鳴を上げたのだった。
ぐしゃっ。
「痛い痛い痛い、
ヘレニウムは問答無用、無言で踏みつけたけど――。
そして。
「……残念です。今ここにハンマーがあれば、今すぐに息の根を止めるのですが」
ギチギチと、鉄靴の裏で踏みしめながら。
ヘレニウムはツルギに向けてそんな酷いことを言った。
ヤメテと懇願するツルギにも、ヘレニウムは冷酷無比だ。
ハンマーが崩れて消えうせていて良かった。
ヘレニウムの手にハンマーがあれば、漆黒大剣は目覚めた直後に即死だった。
そんなことより、テッドは、ツルギが喋っていることに驚き、唖然とし。
「……い、いや、この剣、コトバ話シテマスケド?」
なんかおかしくね?
「問題ありません、今すぐ、叩き壊しますから」
拳骨を握り締めるヘレニウム。
「ひぃぃ!?」
テッドは止めるべきか否か、迷うのだった。
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