JK魔法捜査官 警視庁魔法課 ─(魔)─ マル魔の冴
おだた
魔法警察学校編
第1回
今日は、
桜の木は青葉に変わり、春の雨と風の日が去って、暖かなそよ風が吹いている。空は青く染まり、陽は鋭く射して眩しい。
スズメが水たまりで水浴びをし、蝶は花で蜜を吸い、冴の部屋から、目覚まし時計の音が響いてくる。
うららかな4月28日。
目覚まし時計を止め、ふわ~と背伸びをして、爽快にベッドから飛び起きる。
パッとカーテンをめくって、窓を開けると、外の空気を大きく吸い込む。
「う~ん! 良い天気」
窓を閉めて、身支度を調える。誕生日とはいえ、今日は学校だ。
キッチンに降りてエプロンを巻くと、ご飯を炊き、味噌汁を作って、手際よくおかずを作り、テーブルへ並べてゆく。
そこへ、父がリビングに入ってくる。
「おはよー」
「おはよう。お父さん」
「
「あいつ、まだ寝てるのか」
「起こしてこようか」
「私が行く」
階段を軽快に駆け上がって、妙の部屋のドアをノックする。
「妙! 朝だよ」
返事は無い。
「妙! 遅刻するよ!」
返事は無い。
ドアを開け、布団に包まっている妙の布団を、一気に剥ぎ取る。
「うわあああ」
パジャマ姿の妙が、眠そうな顔で言う。
「おはよう」
「おはよう。早くしな。遅刻するよ」
「うん、わかった」
中学の制服に着替えて、妙はリビングに入ってくる。
「それじゃ、朝ごはんにしようか」
三人がテーブルに着いて、手を合わせる。
「いただきます」
「冴。誕生日おめでとう」
「お姉、誕生日おめ」
「ありがとう」
「今夜、家族そろってパーティをするから」
「プレゼント楽しみにしててよね~」
「変なの用意してないでしょうね?」
「そんなことしないよ」
「ほんとかなー」
「お父さんこそ、仕事で遅れるんじゃない?」
「難しい案件は終わったから、だいじょうぶ」
「忙しいみたいだけどさー。助手のひとりもいない私立探偵が、よく潰れないよねー」
「妙、そういうこと言わない」
「お母さんが生きてた時って、お父さんと一緒に働いてたんだよね?」
「そうだよ」
「お母さんが生きてた方が、もっと仕事がはかどったと思う」
「なんで?」
「あたしは小さかったから、覚えてないけど、写真で見るお母さんの方が、お父さんより優秀そう」
「確かに、俺よりお母さんの方が優秀だったな」
チェストには、母の写真が飾られている。
その写真の隣に、父と、3歳の冴、生まれたばかりの妙を抱いている母。家族そろった写真も飾られていて、母の形見である、懐中時計が供えられている。
「お母さんが亡くなってから、もうじき10年だね」
「前から気になってたんだけど、なんでお母さんのお墓って無いの?」
「無いな」
「なんで?」
「遺言だ」
「遺言かあ。それじゃ仕方ない」
食事を終え、冴と妙は登校時間だ。
「食器洗う時間ぐらいあるかな?」
「俺がやるから、行ってきなさい」
「ありがとう、お父さん。行ってきます」
「いってらっしゃい」
ふたりは、うららかな日に飛び出して行った。
高校の校門。
男子や女子が門をくぐってゆく。
冴が通りかかったとき、彼女の肩を叩く女子がいる。
「冴! おはよう」
「おはよう」
彼女を皮切りに、次々と、冴の周りに集まってくる。
「おはよう!」
「おはよ~」
「今日も美人だね~」
端正な美しい顔に、黒髪ロング。スラっとした長身だが、細いわけではない。
「昨日と一緒だよ」
「あ~あ。あたしもこんな風に生まれたかったな」
「お母さんの遺伝だよね」
「冴のお母さん写真見たことある。美人だよね」
「やっぱり遺伝か~。あたしのママはダルマだし。見てこの丸い身体」
彼女は腹をつまんで見せた。
「そんなことないよ」
「お世事ありがとう」
校舎に入り、下駄箱を開けると、バサッと、大量のラブレターが落ちた。
「すっごー」
「また~」
「さすが、冴」
「入学して一か月もたたないのに、モテモテだねぇ」
冴は手紙を拾い集める。
「全部、持って行くの?」
「うん」
「どうせ全部、断るんでしょう」
「せっかくくれたんだし」
「聖人か!」
教室で、机の上に、一枚づつ広げてゆく。
「ほんとに全部、読むんだ」
「やっぱりね」
「しょうがないなあ。あたしが封を開けるの、手伝ってあげるよ」
その子は無造作に、一通の封筒を手にする。開けようとした瞬間!
パンッ!
冴がその手を叩き払った。
「いったー。なにすんのよ冴!」
封筒を拾って、慎重に封を開けると、中からカミソリの刃が落ちた。
「なにこれ?」
「こわ」
「脅しかな」
「どうしてこんなこと」
「冴を快く思わない人も、いるってことだね」
「冴が叩いてくれなかったら、あたしがケガしてたよ」
「でも、よくわかったね」
「なんか、嫌な感じがしたから」
「エスパー冴」
「そんなんじゃないよ」
「でもさ、冴って時々、勘の良いときあるよね」
「偶然だって」
手紙は紙袋に入れて、持ち帰ることにした。
授業が始まる。
教科に偏りなく、冴は勉強ができる。
数学では、黒板に数学の正解を回答し、国語では、感情のこもった朗読を披露し、理科では、分子式をすらすらと書きつづって、歴史では、年号と、その時代に起こった事件、関係した人物まで完璧に回答する。
体育では、走れば1位。サッカーではピンポイントのパスを出し、テニスのサーブは誰もレシーブ出来ない。
「ああいうのを完璧人間っていうんだよね」
「弱点無いよね」
「柔道黒帯だって」
「マジか!」
「小学生の頃からやってたんだって」
「あたしたち、かなわないよね」
「そのうえ性格まで良い!」
「神は二物を与えずっていうけど、冴には三物も四物も与えた」
「それなのに、どこの部活にも入っていない」
「家の手伝いがあるからって言ってた」
「お母さん亡くなって、父子家庭らしい」
「冴の才能の、3%でいいから分けてくれ」
「でもね、冴にも弱点がある」
「「「なに?」」」
「胸が無い」
「そこかい!」
「無いってほどじゃないでしょ」
「Bぐらいかなー」
「やっと探した弱点が胸の大きさって…」
「あたしたちのレベルの低さよ」
放課後。
冴たちが校門から出てくる。
「ゴールデンウィークさあ、みんなで遊びにいかない?」
「賛成」
「どこ行く」
「夢の国」
「冴はどっか行きたいところある?」
「ごめん。私、家の手伝いがあるから」
「そっか~」
「残念」
「じゃねー」
「バイバイ」
「さよなら~」
「バイバイ~」
冴はひとり、帰路につく。
父の探偵事務所に寄って、父の都合を訊いて、夕食の食材を買って帰ろう。
冴は、雑居ビルの建ち並ぶ繁華街を歩いている。
そのとき、ビルとビルの隙間から、悲鳴が聞こえた気がした。薄暗い隙間を覗き込むと、暗闇に人影が見える。女性が恐怖におびえる声と、恫喝する男の声が聞こえる。
冴は、なんのためらいも無く、その隙間に入って行く。
隙間の奥では、女性が複数の男性に襲われていた。
「まったく。人の屑が」
男達が冴の存在に気がつく。
「なんだ?」
「女子高生?」
「おいおい、鴨がネギ背負ってきたぜ」
「なんだお嬢さん。この場に参加したいのか?」
「あまりにも酷い行いを目にしたので、制止に来ただけです」
衣服を剥かれた若い子が、おびえ震えている。
「まず、警察呼ぶか」
冴はスマフォで110番を叩く。
次の瞬間、男が冴につかみかかった。男は、一回転して地面に叩き付けられた。
「このアマ!」
次の男も、冴の正拳が肝臓に決まって、その場に倒れた。
三人目の男は、冴に金的を食らって立てなくなった。
冴が、女性に優しく声を掛ける。
「大変でしたね」
女性は、泣いている。
「今、警察を呼んだから」
冴は、彼女を抱きしめ、怪我の有無を手で探った。嬉しいことに、服が破られているだけで、身体に大きな怪我は負っていないようだ。
「立てますか?」
震える身体を支えながら、彼女を立たせる。
「とりあえず、ここから逃げましょう」
彼女を支えながら、ゆっくりと歩みを進め、薄暗いビルの谷間から出ようとしたとき、倒れていた男が、むくりと起き上がり、ポケットから光る物を抜いた。
冴は気がついていない。
彼女がおもむろに後ろを振り返った時、ナイフを持って突進してくる姿が見えた。
「キャアアア!」
ナイフは彼女の腹に刺さった。
ナイフを抜くと、鮮血が噴水のように噴き出し、冴の顔から制服を真っ赤に染めた。
男はそのまま逃げた。彼女はその場に倒れた。
「なんで…。どうして…」
倒れた彼女の腹部から、止めどなく血が流れ出てくる。
冴は片手で傷口を押さえ、片手でスマホを操作して救急車を呼ぶと、スマフォを手放し、両手で傷口を押さえた。
「死なないで。お願い! 死なないで!」
その時、傷に当てた手から白い閃光がほとばしり、暗いビルの谷間を眩しく照らした。
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