第5話  2階層へ

 ライは身構えて扉を潜った。

 扉を潜るとその扉はすーっと消えていった。


 そこはボス部屋だが、動くものや生き物の気配がまるでなかった。


 ライはメアリー達がここで全滅したのではないのか?そんなふうに不吉な考えが頭を過ぎったが、すぐに首を振った。この目で死体を見るまでは生きていると信じるしかないからだ。


 よく見ると直径20mくらいのこの部屋の中心部に宝玉が有った。そう、触れるとギフトを得られる宝玉だ。


 ボスの再出現の法則は知らないが、それは誰かがボスを倒し、まだ再出現していない事を意味する。少なくとも自分が生きている限り次のパーティーはダンジョンに入れない。つまり自分達のパーティーが倒した筈なのだ。


 ライは深呼吸し、先に進まなければと躊躇う事なく宝玉に触れた。


 突っ込みどころ満載のギフトを得た。ギフトを得る時は不思議な感覚に見舞われる。不思議な記号や模様が頭の中を通過してまた戻り、段々中心部に凝縮されていき、目の前に小さな塊が出来ていく。凝縮?が終わるとそれが急接近して頭に当たり、光りに包まれるのだ。


 得られたのは

 スキル付与

 ?だった。多分僕の持っているスキルを誰かに分け与えるのだろうけど、僕のスキルは魔法全属性適正だけだ。これを誰かに上げたら自分は確実に死ぬ。上げられるスキルなんてないやと。いや待て、今はライオットがあるか!とひとりで突っ込みを入れていたが、ライオットはギフトかとため息をついた。


 いかんいかんと首を振り、現実に向き直った。扉は3階層への扉のみが出た。


 ライはやはりと思った。1階層の時とは違うのだ。事前に聞いていた事から考えると、メアリー達の前にも同じように一つの扉しかなく、先に進まざるを得なかったのではないのかと。


 やはり生きている者がいれば、全員が揃わなければどうにもならないのだと。つまり、少なくとも5人のうち1人は必ず生きていると。なんの根拠も無いが、メアリーは生きていると己に言い聞かせていた。


 この時僕はこのダンジョンのいやらしさをまだ知らなかった。考えが甘かった。


 ライは思った。メアリーは僕を助けねばと思い、先を急いだ可能性がある。だから僕も急がないと駄目だと感じ、顕れた一つの扉に入った。


 残念なが、3階層の開始位置らしい。少なくとも知られている限り3階層も一本道だ。


 途中の道に折れた矢、何かに当たり鏃の先端が少し凹んでいる矢、投げナイフが落ちていた。矢を放っている事から少なくともメアリーは2階層を突破した筈だと安堵していた。弓矢の装備はメアリーのみだからだ。


 更に先には血溜まりが有り、近くにはポーションの空瓶が転がっていた。まだ血は乾いてはいないから、それ程時間は経っていない。


 ただ、誰かが怪我をしたのだと理解できた為、ライは段々焦ってきた。

 ポーションで回復出来ていれば良いが、万が一回復ポーションが無くなった場合は ユリカの光属性が頼りだ。彼女は光属性が使える。ライはダンジョンに入る前日にヒールを教えていた。時間が掛かるが彼女がいれば、ある程度の回復が見込めるのだ。但し魔力が尽きるまでの事だ。

 

 魔法を覚えるのにはいくつか方法がある。勿論適正のある属性を持っていなければならない。

 魔術教本を見て勉強する。これは時間が掛かり見送った。次に唱えているのを見て覚えるだが、それも崇実を要するので断念した。


 最後の一つはライ達には恥ずかしく敷居が高かったが、今回はそれを行った。


 術者と教わる者が額をくっつけながら魔法を発動すると、魔法のレベルにもよるが数回で覚える事ができる。

 ユリカは魔法教本で覚えている最中だったが、時間がないから今回は強制的に覚えて貰う事になり彼女も了承した。


 メアリーの立会の元ライは自らの腕に軽く傷を付け、お互い真っ赤になりながらも額を合わせ、ヒールを使った。ライはドキドキだよと心の中で呟いていた。


 かなりの美人さんと、その、唇が触れる距離に顔があるんだよね。今まで単なるクラスメイトとしか思っていなかったけど、なんか良い香りがしていて、女として彼女を意識してしまったんだ。抱き合わないと行けないので彼女の温もりや心臓の鼓動が感じられたがドキドキしているようだったな。僕のも早いけど変に思われたかな?そんなふうに変な心配をしていた。


 ライが女の子と抱き合う事に慣れてないと男の子が苦手なユリカが可哀想だとメアリーが言い、前日にメアリーに魔法を教える時の所作の予行練習をした。


「その、勘違いしないでよね。ユリカの為なの。私も子供の頃ライ君とぎゅっとしたのは別として、男の子と抱き合ったりするのは初めてだから、その、恥ずかしいの」


 分かったと頷き、じゃあ行くよと言ってライはそっとメアリーを抱き締めた。胸の感触が伝わりドキドキした。そして目と眼があい、良い雰囲気になりキスしそうになった。しかし、邪魔が入った。どちらかのお腹がぎゅルルとなり、二人共はっとなった。


 慌てて額を合わせる予行練習をし、お互い真っ赤になりながらその日は別れた。

 

 ユリカと額を合わせる事7回。ようやくヒールを取得できた。


「嬉しさのあまりだと思うけど、あのユリカちゃんが僕に抱きつき、更に頬にキスをされたよ。僕は多分頬を赤らめていたと思うんだけど恥ずかしかったな。悪い気はしなかったし、ユリカちゃんの事を異性として意識してしまった」


 その日の日記にライはそう記していた。


 ユリカはその後真っ赤になりながら、何故かメアリーに謝っていたが、ユリカちゃんは良い子だなと、ドキリとしっぱなしのライだった。


 ふとそんな事を思い出していたが、ライはそんな事を今は思い出している暇なんかない!先に進まなきゃと思い、使えそうな矢、投げナイフや放置していったと思われる魔石を回収し、先を進む事にした。


 ライはひたすらヒールを掛け続けたからか、漸く速歩きが出来るまでに脚が回復した。ただ、走るのはまだ早そうだったから、足をいたわりつつ先へ進むのであった。

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