恋の始まりはダンジョンで
鍵弓
第1話 ダンジョン攻略へ
僕達6人はダンジョンの地下2階層を進んでいた。
即席の特別パーティーでダンジョンに挑んでいる。地下一階層のボスをさくっと倒し、先に進んでいたんだ。しかし問題が起こり、今は僕一人で最下層と言われている地下五階層のボスと対峙ナウだ。
どう見ても勝ち目がなかった。地下二階層で幼馴染みのメアリーは僕の前を歩いていて、皆と先を進んでいた。しかしメアリーがトラップを発動させてしまい、床が抜けたんだ。
「メアリー!」
床が抜けた瞬間、咄嗟の事だったがメアリーと叫び、前方にいたメアリーを左腕で突き飛ばした。彼女の位置と入れ替わった感じになり僕は落下したが、メアリーは辛うじて落下を免れ、穴の縁に掴まって悲鳴を上げていた。彼女の事は他のメンバーが引き上げてくれるだろう。
僕は落下している時も偶然剣をしっかり握っており、うおぉぉぉ!と叫けんでいた。
頭の中には大切な幼馴染のメアリーの事が走馬灯のように思い出され、最近は邪険にされていたなと短い筈の落下時間が妙に長く感じられた。
やがてぐさりと何かに剣が刺さった。左腕と胸に激しい痛みが走り、もう一度落下したが今回の落下時間は短かった。
どうやら僕は魔物?いやフロアボスの上に落ちたらしく、3m位ある巨大な魔物の背中から落ちたようだった。背中をしこたま打ち、肺の空気が一気に抜けてぐはっという唸り声を上げた。
剣は僕の手にはなく、よく見るとそいつの首の後ろに刺さったままだった。
咄嗟に予備武器の短剣を右手で掴み、慌てて立った。
何とか動けそうだが、左腕は明後日の方向に曲がっていて折れていた。
アドレナリンが出ているからか、不思議と余り痛みは感じなかった。
ボスは巨大で、多分グリフォンかワイバーンだ。最悪だ。
到底勝てない相手だからだ。上級冒険者でないと勝てない筈の強さなんだ。偶々落下した先に魔物がいたから剣の一撃が入ったけど、本来、僕の実力ではかすり傷ひとつ付けられず、刺さったのは偶然だ。
ダンジョン攻略メンバーになった時に教えられたが、5階層はまだ誰も突破したことがないが、グリフォンやワイバーンなどの大型の魔物が出る筈だと。ただしこの場所はヒカリゴケにより薄っすらと明るいが、十分な照度がない為グリフォンかワイバーンかの判断がすぐにはつかなかった。
僕は震えながら予備武器の短剣を出し身構えていた。情けないけど、恐怖から少しチビッでさえいたんだ。そいつは予備動作も無くいきなり尻尾を振って来たので僕は短剣で受け流そうとするも、弾き飛ばされてしまった。そして壁に激突し、右目が激しく痛み、顔から血が出ているのが分かった。どうやら右目をやられたようで、右目が全く見えなくなっていたんだ。
僕はもう駄目だと覚悟を決め、最後の力を振り絞ってうおぉぉ!と叫び声をあげながらボスに突撃して行ったんだ。
近くで見るとどうやらワイバーンだった。以前本で見たワイバーンの姿だからだ。ダメ元で一矢報いてやろう!そんな気持ちで無事な方の右腕で短剣を握り突進した。
しかし前足を振ったようで、僕はあっさりと吹き飛ばされた。そして吹っ飛ばされ立ち上がろうとして先ずは体を起こしたが、僕の左腕が目の前に転がっているのが見え、愕然とした。
肩の付け根から先を持っていかれ、血がドバドバと出ていた。
咄嗟に起き上がり、痛む足を無理やり動かし、その場から後ずさった。するとボスが今まで僕のいた位置にジャンプして来た。
そして僕はポケットの中にあった最後のヒールポーションを出し、一気に飲み込んだ。
そのワイバーンは馬鹿なのか、それとも僕の事はいつでも殺れると油断したのかは分からないが、僕の左腕を食べ始めていた。
もう死を覚悟してはいたが、最後の決断をした。1階層のボスを倒した時に得られたギフトを使う事を決断したんだ。
このダンジョンはフロアボスを倒すとギフトを一つ貰える特別なダンジョンだ。パーティーを組んで挑むのだが、ボスを倒せばパーティー全員に各々一つギフトを貰えるのだ。僕が得られたギフトはライオットという。名前から多分雷かそれに近いのを放つギフトだと思われる。
得られたギフトは一度使うまでは名前しかわからない。
過去の取得者の中には生産系や予知夢であったりもあるとの事で、必ずしも戦闘に役に立つギフトを得られる訳ではない。
多分雷を放てるというか、そう祈っているのだが、使うのを躊躇ったのは最悪な事に、ギフトというのは一番最初に使う時は全魔力を持って行かれる可能性がある。そうすると数時間は気絶する。込める魔力を本来は細かく制御し、弱いのを出せるのだが、初めての時はそのギフトが扱える最大魔力になるんだ。
しかも大した魔力を使わないギフトであったとしても、短くても10分は気絶すると聞いている。
もちろん一度も使っていない。そもそも攻撃系のギフトだとしても、どれぐらいの威力が有るのかも分からないし、このボスに通用するのかも不明だ。
片腕を失い、片目も失った。今の僕は見事な位に満身創痍だった。そんな僕に残されているのは起死回生の一撃を放つ事だけしかなさそうだった。
幸いボスは僕の腕を食べている為、初めて使うギフトを放つだけの余裕ができた。
もうあまり時間が無さそうだった。血を流し過ぎた所為かふらふらで、今にでも気絶してしまいそうだ。
また、もうボスに向かって歩くだけの力が出てこない。回復ポーションを飲んだから足はそのうちに回復するだろうが、先程吹き飛ばされた時に足を挫いていたので今は走れる状態ではなかった。
先程その場から一時的に脱するのに無理をして後ずさった為、悪化していたのだ。
最早起死回生の一撃を放つ事を躊躇ってはいけない状態だった。気絶してしまうのでこの一撃でボスを倒す事が出来なければ、今度は気絶している僕をボスは躊躇う事もなく食べてしまうだろう。つまり死んでしまうんだ。意を決した僕は手を頭上に掲げて叫んだ。
「我が求めに応え開放せよ。ギフト開放ライオット!」
すると僕の手に魔力が凝縮されて行くのが分かる。ボスも異常に気が付いたがもう遅い。
僕の手にある魔力が天井に向かって放出されたのが分かった。すると天井に雲?が顕れ、その雲から一条の光がボスの首の後ろに刺さった剣に向かって迸り、結果を知る前に僕は意識を手放した。
僕の名はラインガルド=ビークル。皆にはライと呼ばれていて、よく名前負けしているなと言われていたりする。年齢は16歳で父は商人をしている。今はまだ前世の記憶は無かったけど、どうやら転生者なんだ。どうしてって?うん、時折前世の夢を見るからなんだ。よくわからなかったけど。
幼馴染のメアリーは隣の家に住む下級貴族の娘で同い年の16歳だ。
僕は良くも悪くもごくごく一般的な外観をしている。少し甘いマスクになりつつあるのかな?と期待したい。父さんが子供の頃は平凡な顔だったが、大人になるにつれて二枚目になってきたといい、口を開かなければ確かにかっこいいよなとは思う。ただし、今の僕はまあ平凡と言われる顔だ。
それに引き換えメアリーは金髪で目がクリクリっとしており、胸もそこそこ大きい。
そして何より顔がかなり整っている。そう美人さんなのだ。周りから、特に男からマドンナ扱いをされ、彼女のハートを射止めようと皆が虎視眈眈と狙っているような感じだ。でも誰にも渡したくない。だって大好きな僕の大事な幼馴染だもん!
それに子供の頃メアリーは僕のお嫁さんになるって言っていたし、僕も大人になったら結婚しようねと約束したんだ。今でもその約束は生きているのだろうか?彼女は日に日に綺麗になり、眩しくなっているんだ。
去年辺りだろうか。背の小さかった僕が成長期に入り一気に背が伸びた。今では平均よりも大きくなり、一年前は僕の背はメアリーより少し小さかったのだけれども、今では握り拳ひとつ位大きくなった。
メアリーが僕の事を邪険に扱うようになってきたのは、彼女より背丈が高くなった頃からだろうか?よく顔を突き合わせ言い合いをしていたっけ。最近はそんな感じだったな。
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