act.6 ギルドマスターはチョビ髭と戦います

alert 第六天魔王ノブナガ / 種族・幻獣


「やっば!

 ノブナガ君来ちゃったよ、グレイさん、クロウさん!」


 まるでお友だちのようにノブナガを呼ぶの~りんだけど、この第六天魔王ノブナガはお友だちにはなりたくないタイプ。

 そもそもお友だちじゃありません。

 琵琶湖周辺が出現エリアになってるレアキャラで、強さは 【フチョウ】 のボスキャラ並み。

 種族が 【幻獣】 に属するNPCはだいたいどれも面倒なんだけど、その中でも群を抜く強さと厄介さを持ってるレア中のレア。

 HPの高さももちろんだけど、半端ない火力を誇っている。


「どうする、クロウ?

 見える範囲にはいないみたいだけど、ここで消えるのを待つ?」


 ノブナガの出現はランダムなんだけど、出現している時間には制限がある。

 交戦や勝敗にかかわらず、15分経つと消えてしまうという制限時間。

 まるでウルト○マンみたい。

 カラ○タイマーは付いてないけどね。

 だからこのままじっと時間が過ぎるのを待つのも一つの手。

 でもノブナガは出現エリアがかなり広く、しかも移動するから、近くだと見つかる可能性もある。

 しかもただアラートが出ただけならともかく、名称まで表示されたってことは結構出現位置は近いはず。

 逃げるにせよ、待つにせよ、肝の冷える運試し。

 小心者のわたしにはちょっとこの待ち時間が辛い。

 ちなみにココちゃんもトール君もの~りんも、ノブナガの一撃で蒸発しちゃう。

 だから交戦は選ばないけれど、クロウはどうするんだろ?

 もちろんクロウ一人、パーティを離脱して交戦してもいい。

 だけどその場合は、クロウを囮……ゲフゲフ……じゃなくてクロウに足止めをしてもらって三人を逃がさせてもらうけどね。

クロウだって、自分の選択によってわたしの行動が変わるってことはわかってるはず。

 その辺は付き合いの長さでね。

 何しろテスト版からの付き合いだもの。


「グレイさん、あれ」


 ちょっと怯えた顔のココちゃんが指さすのは湖の方角。

 どうやら思っていた以上に湖近くまで来ていたらしく、木々のあいだに湖面が見える。

 同じように、木々のあいだに交戦中を思わせる数人のプレイヤーが見える。

 しかもみんなキラキラと光って綺麗ね。。

 これは被弾によるHP流出現象ドレイン

 つまりガッツリノブナガと交戦中ってことだと思う。

 そんな状況を確認したわたしは、思わずガッツポーズ。


「よっしゃ!

 狩りにあってるなら今のうちに逃げましょう」


 ノブナガはエリアキャラ。

 誰でも交戦できるから横殴りも当然あり。

 一応ローカルルールでは、最初の発見者に交戦権があるってことになっていて、この状況ではあちらに優先権がある。

 あるんだけど……んー……ひょっとして、あれ、苦戦してる?


「いいのか?」


 珍しくクロウまでがいうから何かと思って、よ~くよ~く目を凝らしても見えないから、ウィンドウを開いてみた。

 そんでもってフレンドリストを呼び出してみたら、セブン君の位置情報が結構近くにあるじゃない……っていうか、この座標は琵琶湖湖畔よね。


 あらら


「うわぁ~あれ 【鷹の目】?

 相変わらず柔らかぁ~い。

 でも邪魔したらうるさいのよね」

「でも……圧されてますよね?」


 ちょっと心配そうなココちゃんだけど、彼女には近寄れない。

 さっきも言ったけど、ココちゃんはノブナガの一撃で溶けちゃう。

 しかもノブナガは魔力反応型で、質の悪いことに物理攻撃が主体の前衛アタッカーではなく、その前衛を回復、あるいは援護する後方支援職バックアップの魔型を真っ先に狙ってくる。

 で、その支援がなくなったところで、前衛職アタッカーと墜とそうとするずる賢い食わせ物。

 魔型がいないと始めから前衛職アタッカーと正々堂々戦うんだけどね。


「主力のセブン君が標的になってタゲになってるんだろうね」

「ラッキーセブンさんって、魔型なんですか?」


 わたしと同じく魔型で近寄れないの~りん。

 確かにセブン君はクロエと同じ銃士ガンナーなんだけど……


「魔弾を使うからINTも少しは振ってると思う。

 魔弾スキル使ったらアウトだと思う」


 わたしは魔弾を使ったことがないからわからないけれど、確かクロエが標的にされたタゲられたはず。

 同じ魔弾を使える銃士ガンナーなら標的タゲになってもおかしくはない。

 わたしは他クラスのステータス……特に銃士ガンナーのステータスは全然詳しくないんだけれど、ノブナガがステータスINTに反応しているのかどうかは不明なんだけどね。

 しかもそれはノブナガに限らずという厄介な話。

 まぁこれから色々とみんなが試して、攻略ウィキに書き込まれていくと思うけど。

 そんなことを考えながらみんなと話していたら、珍しくクロウが自分のウィンドウを開いてる。

 剣士アタッカーだからいざという時に備えていて、情報収集は後方にいる支援職に任せる癖があるみたいで、戦場では滅多にウィンドウは開かない。

 だから珍しいの。


「残り時間11分」


 なるほど。

 アラートが出るこの距離なら、わたしたちにもノブナガの制限時間タイムリミットがわかるんだ。

 それでウィンドウを開いたのね。

 いかもまだ11分もあるって、結構残ってるんだ。


 4分しか経ってない……


「じゃあこうしましょ。

 の~りんたちは隠れてて。

 パーティ組んでそんなに離れてなきゃ、経験値の分け前がもらえるから」

「参戦するのか?」


 クロウの手が背負った砂鉄の柄に掛かる。

 わたしが頷けば、瞬時に抜くはず。

 だから先走らせないよう慎重に話す。


「まずはセブン君にお伺いを立てる。

 あっちに優先権があるから、これは絶対よ。

 で、助っ人が必要なら参戦するし、断られたら即退散」


 いいわね? と念押ししたら、クロウも大きく頷く。

 いくらクロウでも、ローカルルールは守ってもらうから。

素敵なお茶会うち】 も 【鷹の目】 もそこそこ大きくて古いギルドだから、ギルド同士で揉めるのはちょっとね。

 チャットの切り替えは面倒だったから、エリアチャットが届く距離まで近づいてセブン君に声を掛けた。


「セブン君、やっほー!」

「グレイさん、いたんですかっ?!」


 驚いた声を上げるセブン君は……まぁ当然かな。

 わたしもクロウも位置情報の表示をoffにしてるし。

 でも目だけはちゃんとノブナガを見ているし、構えた銃口は下ろさない。

 その周囲に見える彼のパーティーメンバーが凄く嫌そうな顔でわたしたちを見るけれど、それは知ったことじゃありません。


「いたの」

「だったらもっと早く助けてくれません?」

「じゃあ横殴りオッケー?」

「オッケ、オッケ!

 軽く畳んじゃって」

「簡単に言ってくれるわね。

 行くわよ、クロウ」


 声を掛けた次の瞬間、背中の大剣を抜いたクロウがわたしの横をすり抜ける。

 そしてあっという間にノブナガに一太刀を浴びせる。

 もちろんクロウ本気の一撃とはいえ、相手はノブナガ。

 被弾箇所から流れ出るHPはたいした量じゃない。

 もともともHPが馬鹿みたいに高いから、さほどゲージは減らせてないと思う。

 琵琶湖を背にした戦国武将は、身の丈がプレイヤーアバターの軽く2倍以上ある巨人で、鎧に髷を結ったチョビ髭に、目を爛々とぎらつかせている。

 質の悪いことに、ノブナガと交戦を始めると、燃えさかる焔を思わせるちょっと怖い効果音BGMが聞こえてくる。

 ココちゃんとか、可愛い女の子はこれですっかり怯えちゃう。

 わたしは魔法で攻撃をする前に、エリアチャットが通じる範囲ギリギリに待機するココちゃんに呼びかけた。


「アレ、回復できる?

 攻撃目標タゲがそっちに向かないようにするから、やって」

「わかりました」


 さすがは完全支援型魔法使いのココちゃん。

 火力を持たない代わりに素晴らしい回復力を持っている。

 ノブナガを狩ろうって輩なんだから、あそこで伸びてる 【鷹の目】 のメンバーだってそれなりに高HPのはず。

 それを数回の範囲回復エリアヒールで完全回復させちゃうんだから、たいしたもんじゃない。

 彼女が一仕事を終えた直後にわたしが大砲を一発ぶっ放せば、もれなく攻撃目標タゲがこっちを向いてくれるって算段は見事に成功。

 成功したんだけど、そうすると当然ノブナガ君はわたしに殴りかかってくる。

 しかもわたしの大砲によるダメージなんて微々たるものだし、もうやだ!


 このクソ親父!!


「グレイ、無茶をするな!」


 ノブナガの武器は刀だから物理攻撃は斬撃。

 魔法使いのわたしには受ける手段がないから逃げるしかないんだけど、盾剣士ガードでもないくせにクロウが代わりに受けてくれる。

 前に出ていたクロウは、大きく踏み込んでわたしに迫ってきたノブナガの前に滑り込み、振り下ろされる刀を大剣・砂鉄で払い飛ばす。

 そこら辺のへっぽこ剣士アタッカーには出来ないんだけど、クロウは硬さにも火力にも定評のあるトッププレイヤーだもんね。

 さすがのノブナガも一刀両断ってわけにはいかない。

 被弾したわけじゃないからHP流出現象ドレインは見られないけれど、代わりに受けた砂鉄の耐久が心配になる。

 魔型のわたしがノブナガの攻撃目標ターゲットタゲになるのはいつものことなんだけど、【鷹の目】 のメンバーを回復してから攻撃するとは思ってなかったから、ちょっとクロウの予測を外したみたい。

 クロウにしては珍しく、ちょっと慌ててた。

 クロウが攻撃目標ターゲットになってから、わたしが大砲をぶっ放すと思ってたのかな。

 ノブナガと刃を切り結んだ衝撃で、今もクロウの手で砂鉄の刃が小刻みにびりびりと震えてる。

 たぶんわたしの握力じゃ持ってられないと思う。


 ごめん


 ちなみに 【鷹の目】 の剣士アタッカーは、ノブナガと斬り結ぶまでもなく文字通り即死。

 横真一文字に胴を断たれるとか、柔らかいとかいう以前に下手くそすぎない?

 でももう危ないからココちゃんには回復させない。


 終わるまで死んでねてなさい


「さすがグレイさん、クロウさん。

 HPがガンガン減ってる」

「ガンガン行かなきゃ倒せないでしょう?

 セブン君も真面目にやって」  

「あの大技、使わないの?」


 セブン君がいう 「大技」 っていうのは、わたしだけが持っているある固有スキルのこと。

 凄く強力なスキルなんだけど、アレは使わない。

 どんなに期待に満ちた目を向けられても絶対に使わない。

 MPどころかHPまではごっそり持って行かれるし、装備も変えなきゃならない。

 そもそもアレを使ったらセブン君も、そこらで伸びてる 【鷹の目】 のメンバーもみんな巻き込み。

 クロウでさえ耐えきられないんだから。

 一度使ったら、ノブナガはもちろんだけど、敵味方関係なくわたし以外を全員呑み込んじゃうって、どんな威力かわかってる?

 軽くいってくれるセブン君は、たぶん影響範囲を知らないんだろうな。


 一面焼け野原


 だから 【灰色の魔女】 なんて異名をつけられちゃったのに。

 そもそもこんな広いところで使ったことがないから、正直、わたしにもどこまで影響が出るかわからない。

 だいたいね、【鷹の目】のメンバーはこの際どうでもいいんだけど、ギルドメンバーを犠牲にしてまで叩く敵じゃないもの、ノブナガは。

 わたしにしたら、今は凌げればいい。

 いや、クロウがいたらだいたい倒せるけどね。


 ノブナガの斬撃をクロウが捌き、後ろからわたしが魔法で攻撃をしつつ時々ヒールでクロウを回復する。

 こんな感じのコンビネーションで削っていくんだけれど、ノブナガは時々、斬撃から衝撃波を放ってくるのも厄介なの。

 クロウの大剣・砂鉄もそうだけど、衝撃波は確率で出る。

 常に来るわけじゃないんだけど、一瞬で食らっちゃうから嫌い。

 来るってわかった瞬間に被弾してるんだから。

 でも基本的にノブナガは物理攻撃オンリーだから、これがわたしたちの攻略定石セオリー

 二人ともHPは化け物クラスだし、付き合いも長いから息も合う。

 攻撃位置とタイミングを合わせ、確実にノブナガのHPを削っていく。

 セブン君だって同じくらい化け物クラスの高火力で高HPなんだけど、後方支援職全体で言えることだけれど、とにかくVITが低い。

 それなのいに攻撃目標タゲにされて、盾職ガードもいないんじゃ、そりゃ保たないわよね。

 なんて役に立たないメンバーたちよ、廃課金の廃装備のくせに。

 終わってもそのままにしておこうかしら?


 ……ふふふ……


 わたしはそう思ったんだけど、ココちゃんは優しかった。

 ノブナガが消滅したらすぐ彼らを回復してあげていたの。

 仕事熱心でいい子よね。

 ま、恩を売っておくのもいいか。

 そういうことにしておきましょう。

 わたしたちは3分ほど時間を残して 【第六天魔王・ノブナガ】 を撃破。

 わたしやクロウはレベルカンストしてるから経験値はどうでもいいんだけど、初心者のトール君は一気に上がったみたい。

 おかげで当分はダンジョンに潜ってレベリングをする必要はなさそう。

 参加者が増えたおかげで一人あたりの経験値が減って 【鷹の目】 のメンバーは不服そうだったけど、そんなことは知ったことじゃない。

 言いたいことはわかるけど、でもわたしとクロウには経験値は入らないんだもん。

 その分を三人に渡して何が悪いのよ?

 そもそも自分たちじゃ倒せなかったくせに、経験値のことをどうこういうとかずるくないっ?


「助かったよ、グレイさん、クロウさん」


 ココちゃんに回復してもらってセブン君もちょっとさっぱりしたみたい。

 わたしも勝利の余韻に浸りたかったわ。


「これは貸しってことで」

「仕方ないね、今度なにかで返すよ」

「よろしくー」

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