そして、誕生日前日へ
「もう全部もらったも同然だな!おやすみ、祐護さん!」
ツカサの部屋を出て、自室に向かう。
ツカサとのレースゲームは、コースを変えキャラクターを変え十戦ほど行ったが、二勝しかできなかった。
(ツカサ、あのゲーム相当やりこんでるみたいだしなぁ……)
勝利の度にキスなどを要求されたが、頭を撫でて全部いなした。
(俺が勝ち越せるゲームとか、全く思いつかないんだけど……)
そもそも俺が好むゲームは一人で黙々とやるものだらけだった。
それ以上に読書の方が好きだし。
自室のドアを開いて、電気をつける。テーブル上に鎮座する日記を開く。
『五月十日、来訪者なし。ツカサに誕生日プレゼントのリクエストを聞く。』
日記と呼んではいるが、実際はただの記録に近い内容だ。
『全部、簡単に承諾できる内容ではなかった。引き続き、何が欲しいかは聞いていくつもりだが、どうなるやら。』
数年前に書いたものを自分で読み直しても、思い出を振り返るというよりは過去の記録を閲覧しているという感覚に陥る。無味乾燥の文章の羅列だった。
『今日の紅茶:カモミールティー』
(カモミールティーは、紅茶じゃなくてハーブティーだけどね)
それでも
(誰かが紅茶を淹れてくれたって記録だけで、俺の心は温まるんだ)
この紅茶の記録だけが、俺がこの日記に記録している人間味なのかもしれない。
日記を閉じて、電気を消す。
ベッドに倒れて目を閉じると、俺の前で泣いていたツカサの姿が浮かんだ。
(ツカサも俺に嫌われてないかとか、俺が出て行かないかって、不安に思ったりするんだな)
ここ最近は自分のことばっかり考えていたなと思う。
(ツカサの願いを全部叶えるとかは絶対無理だけど……。何が望みかはちゃんと聞こう)
そして。
(ツカサは俺のそばからいなくならないって、少しずつ信じよう)
まだ不安も恐怖もある。信じようという心がけの段階で、信じている、という確信ではない。
それでも。
(……ツカサはいなくならないって、信じる努力はしよう)
ツカサを泣かせないためにも、そう決意する。
そして約一ヶ月後。
六月五日。ツカサの誕生日前日。
「ここ!?スペース兄ちゃんいるの!?」
アスタリスクの玄関に、黒い毛並みの馬が現れた。
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