闇が裂ける時

ワッショイ勝ち知らず(長谷川けろ)

第1話

 アダルトチルドレン


 バカにしないでよ


 いいんだよ。それで


 そうやって笑ってるんでしょ


 お前には俺がバカにして笑ってるように見えてるのか


 じゃあなんでアタシのことをアダルト何とかって言うのよ


 アダルトチルドレンに見えてるからだよ。でも、それで良いと思ってる。


 帰る。


 リコはそれ以上なにも言わずに出て行った。


 言葉を交わしているうちに疑いが大きくなる。信じようと思う度に行動に疑問を抱き見ないようになる。

 言葉で伝えて行動で示すと相手は怖じ気付いて逃げてしまう。


 そこまでじゃなかった。


 言葉の選択肢がそれしか無かったから“愛してる”と言っていた。別れる前提の付き合いならば全てを賭ける必要は無かったのにと溜息をつく。


「別れるかもしれないから愛してるは言わない。愛していたとしても言わない。」

カナが言った。

 今までとは違う言葉だから惹かれてしまったが俺は無表情である。

「あっそ」

「そう」

カナは無表情の俺を笑っている。

「ナオヤの心は見えてるよ」

「お前に?」

「うん。凄く強い念いを持ってるね」

「こんな念いはクソの役にも立ちはしねぇよ」

「そうかもね。無駄だよね。アタシがもらってあげるよ」

「あげられるものならただでやるよ」

「アタシが一生掛けてもらってあげるよ」

俺は真剣なカナから目を逸らしてタバコを吸った。

 ドクロの灰皿を持ってベランダに出た。

 カナに惹かれた俺は尻軽女と同じだなと自分を殺したくなった。この十三階から落ちたら間違いなく逝ける。そろそろ生きるのにも飽きてきたから逝くかなぁ。

「ナオヤ…先にアタシが逝くよ。見てて!」

カナは俺の隣に来てベランダの手摺りを跨いだ。

「怖くねぇのかよ」

「怖いよ。でも、この先の方が怖いよ」

「この先?」

「ナオヤが居ないこの先の方が怖いよ。だから、アタシが先に逝って待ってる」

「お前は何を言ってるんだよ。昨日の夜に知り合ったばかりだぞ」

「知ってるよ」

「なんでそこまで出来るんだよ」

「時間は関係ないよ。一生掛けて傍に居たいって心が叫んだんだもん」

下から吹き上げるビル風がカナの髪を掻き上げている。

「解ったよ。だから降りろ」

「うん」

カナは手を出してきた。

 俺はカナの手を強く握って引っ張った。


つづく

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