09話.[いてくれている]
「野田先輩、光を見ませんでしたか?」
「え? あれ、さっき出ていったけど」
「それなら一緒に探してください」
「あ、うん、それはいいけど」
僕は少し感動していた。
あれだけひとりでいた丸山さんが変われたことに。
いまでは佐久間さんだけではなく松崎さんやこの子もいてくれている。
「なんで保護者みたいな顔をしているんですか?」
「僕は去年から丸山さんのことを知っていたからね」
「ああ、私はあまり知りませんけど変われた……ってことですよね?」
「うん、かなりいい方にね」
別になにがあるというわけではないものの、佐久間さんには言いづらいことだった。
あの子はもう丸山さんのボディガードみたいなものだから。
それに去年は全く話していないのに知っていたとか言われても気持ちが悪いだろうし。
「あ、いたね」
廊下の中途半端なところに座って寝ているところを発見した。
賑やかな場所は苦手だと言っていたから分からなくもないけど、だからってこんなところで寝るのは流石にどうかと思う。
「光、起きて」
「んー……」
「起きなさい」
「ひゃあ!?」
……なんにも見ていない。
とりあえずこれで終わったことだから戻ることにする。
「おい野田、光はどこに行ったんだ?」
「いまは内海さんと話しているよ」
「つかお前、なんで内海のことも知っているんだよ」
それは丸山さんがよく話してくれるからだ。
なにかがあったら誰かに聞いてもらいたいのか色々と教えてくれる。
そのときは本当に楽しそうだから聞いているこちらとしてもいい時間を過ごせるんだ。
話を聞くのが好きだからね、これからも嫌じゃなければ続けてほしいかな。
「おーい」
「睦か」
それでもやっぱり中心は佐久間さんだろう。
彼女がいなければ丸山さんもああはなれていなかった。
松崎さん達とも仲良くやれていなかった可能性もある。
「うん、あ、雅美ちゃん見なかった?」
「光といるんだってさ」
「おお、あのふたりも順調に仲良くなれてるよね」
「あたしは反対だけどな」
「え、なんで?」
松崎さんは少し鈍感なのかもしれなかった。
それかもしくは、僕が偏りすぎているのかもしれないけど。
「それに睦、光に内海を取られていいのか?」
「あ……光はちょっとずるいよね」
「なんでだ?」
「なんでって、あなたを奪ったからですよ!」
なんか巻き込まれそうだったから教室に戻ることにした。
椅子に座ってひとつ息を吐く。
問題がないわけではないだろうけど、話せる相手が楽しそうにしてくれていればそれでいい。
なので、自分のことじゃないのにテンションが上がっている自分がいた。
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