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Nora
01話.[上手くいかない]
「またいるのかよ……」
それはまた随分と勝手な物言いだった。
ただ、言い争いをしたいわけではないから内で片付ける。
「なんだいなんだい、サボり仲間でしょー?」
「あたしが先に見つけたんだよ、どこかに行け」
「知らないよそんなの」
ここは静かで、暖かくて気に入っているんだ。
授業をサボるにはここが一番最適で。
別に積極的に話しかけているとかそういうことではないんだから許してくれればいいのにね。
「つか、なんでサボってんだ?」
「え、そういうのに興味あるの?」
「サボりそうには見えないからだ」
意外だな、どうでもよさそうなのに。
理由という理由もなかったから気分からだと説明しておいた。
最低限出ておけば留年することにはならないから問題ない。
「あなたは?」
「体育だけ出たくないんだ」
あら、意外と素直に教えてくれる子だった。
これまではとにかくトゲトゲしていてできるだけ話しかけないようにしてきたけど、その必要はもしかしたらないのかもしれない。
話してみなければ分からないというのは本当みたいだね。
「でも、それ以外はお前と違って真面目だからな」
「ちょいちょい、私だって出ているんですけど……」
「当たり前だ、授業を受けないなら来ている意味なんかないだろ」
確かにそうだ、しかも私は様々な教科を様々な理由で休んだりする。
そう考えたら自分がクソな人間な気がしてきた。
同類とか勝手に考えた私だけど、自分の方がよっぽど酷かったことになる。
「ちゃんと出ておけ、後悔しても知らないぞ」
「んーまあ、それなら頑張るかな」
いつものように嫌そうな顔ではなく真面目な顔でそう言われたら聞くしかなくなる。
さすがに私もね、常に斜に構えているわけではないんですよ。
それに私もやるときはやる人間だし、なんてことはないことで不安になるからそうするしかなくなるというか……。
「いたっ」
びくっとなったものの、私の知っている子ではなかった。
相棒に話しかけているから少しほっとしたのは内緒だ。
「どうして体育になると毎回いなくなっちゃうの」
「……半袖になりたくないんだよ」
「それなら先生に相談すればいいでしょう?」
結局、相棒もその子には逆らうことができないのかここから消えた。
いや、そもそも体育以外ではサボっていないみたいだから最初から戻る気だったのかと片付けて空を見上げる。
頑張ろうと思っていた自分だけど、残念ながらいまのでそれも消えてしまったんだ。
「いいな、探しに来てくれる友達がいるとか最高じゃん」
悪口を言われているわけではないものの、教室での私は空気だった。
多分名字や名前を知っている人すらいないと思う。
それが出ようものなら「誰だ?」となって変な空気になるだろうからこれでいいんだ。
「いい天気だな~」
これからも赤点を取らないように、留年にならないように動いていこう。
嫌な授業はどんどんと休んで心を綺麗な状態に保つんだ。
そうしなければ駄目になってしまうから。
心クソザコ人間ならこうして自衛しないとすぐに死んでしまう。
それでも午前中最後の授業を受けるために下りてきた。
賑やかな空間は嫌いだ、自分が笑われている気分になる。
逆に静かになっても自分が出す音で見られる気がして嫌だった。
「あれ、珍しいね」
ベタな反応をしてあっちを見たりそっちを見たりした後に男子君を見た。
彼は笑いつつ「そうだよ、丸山さんだよ」と。
「な、なんですか?」
「いや、四時間目にいるのは珍しいなって」
確かにそのままお昼休みになるからということで四時間目は休むことが多かった。
ただ、後々困るのは私だから救いがある内に出ておこうと思ったのだ。
あの子にああいうことを言われたからというのはある。
というかさあ、クラスメイトに敬語を使っているっていいのかこれ……。
ちなみにあの子にも最初は敬語だった、だけどああいう態度でいられたからイラッとしてタメ口に直したということになっている。
「というか……、名字を知っているんですね」
「え? ああ、当たり前だよ、僕達は同じクラスなんだからさ」
名前までは知るまいと謎のプライドを出して聞いてみたら「
正直、異性に名前で呼ばれることなんてないからうぇっとなった、知られていたことなんかよりもその方が大きかった。
恥ずかしかったから横を向いて過ごすことに。
運よく窓際の人間だからこういう過ごし方を選ぶことができる。
そんなことをしていたら先生が入ってきて授業が始まった。
ある程度時間が経過すれば色々な感情もどこかにいってくれるし、今回も特に問題も起きずに終わった。
「はぁ」
購買に行く気にもならなかったからいつものあの場所――ではないところで休むことに。
話しかけられないよう毎時間行こうと決めた。
そうすればそれが当たり前になるから隣の子だって話しかけてはこなくなる。
あと、何気にお昼休みとかにはあの子も来なくなるからとにかく平和だった。
これからもこういう環境ならいいけどと内で呟いた。
「んば~」
リビングに寝転んで時間をつぶしていたら足音が聞こえてきた。
その主は私の横までやって来てこちらを見下ろしてくる。
腕を組んだり、腰に手を当てたりと、その日によって違う感じを見せてくる妹だ。
「ちょっとお姉ちゃん、冷蔵庫にあったプリンを食べたでしょ」
「え? 食べてないけど……」
「嘘つきっ、お姉ちゃんしかありえないじゃん!」
嘘をついてるわけではないんだけどな。
まあ、両親と姉ならこっちを疑いたくのも無理はないのかもしれない。
ぐうたらしている人間だし、そもそも嫌いなのかも。
で、夜ご飯を食べているときにその話を妹が出したら父が食べてしまったということだった。
そのかわりにそのプリンよりも少しいいやつを買ってきてくれたみたいだから、妹は先程までの態度はなんだったのかというぐらいにこにこしていた。
「うぅ、なんか当たり前のように疑われるんだけど……」
「それはあなたが悪いわよ」
私が悪いみたいだったから黙って入浴して部屋に引きこもった。
部屋にいられているときだけが私の心が休まるときだ。
寂しいときは動画投稿サイトを見て過ごすことが多い。
やめたらまた出てくるから土曜日から日曜日にかけては徹夜になることが多々あって。
そんな眠たい状態のまま、顔を合わせても喧嘩になるばかりだから外で過ごすのが常だ。
「はぁ」
ため息をつく回数というのも歳を重ねるごとに増えてきた。
ま、こうしてひとりでいる分には誰も不快にさせないからいいだろう。
これぐらいの自由ぐらいは認めておくれよ。
「あれ、丸山さん?」
「あ、隣の席の……」
どんな偶然だ、なんでこんなピンポイントで会うのか。
この公園は人が全く来ないことで私の中では有名なのに。
「なんか眠そうだけど大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「そっか、あ、僕は用事があるからもう行くね」
はあ、別に話しかけてこなければよかったのにとは思いつつも、気をつけてくださいと優しい私は言っていた。
嫌われるとあの最近決めたことも守れなくなるから仕方がない。
あと、家族からもああいう対応をされているのにこれ以上誰かから嫌われるなんて耐えられないからというのもあった。
「あれ、まだいたんだ」
「日曜日はずっとここで過ごすんです」
「でも、暇すぎない?」
「そうですか? 空を見ていたりすればいくらでも時間をつぶせますけど」
これで暇となってしまうなら普段の授業サボり中だって駄目になってしまう。
ごちゃごちゃ考えていればあっという間だから苦痛に感じたことはなかった。
こうして彼と話していることの方がよっぽど苦痛だと言える、彼が悪いわけじゃないけど。
「そうだ、時間があるならどこかに行こうよ」
「えっ、私は……」
「別になにもしないからさ、ほら――」
腕を掴まれてひぃと怖くなったときのことだった。
「丸山、あたしと約束していたの、まさか忘れていたわけじゃないよな?」
何故かあの子がやって来て、私の逆の腕を掴む彼女。
そうする前に彼の腕も自然と離させていたからプロだなって思った。
「あれ、約束していたの?」
「ああ、だから今日は諦めてくれ」
「それならよかった、ひとりで過ごされたくなかったからさ」
結局、彼は私に怖いことをしたいわけではなくて心配だっただけなんだろう。
それなのに結構失礼な態度を取ってしまっていた。
でも、いきなりああいうことをされれば誰だって警戒をするよ……。
「安心しろ」
「じゃあ僕はこれで、どこかに行くなら気をつけてね」
彼が完全に見えなくなってから彼女は横にどかっと座った。
それからこっちを見てきて「嫌なら嫌と言えよ馬鹿」と言ってきた。
「あ……それよりさっきはありがとう」
「別にいい。ただ、そういう態度は見ていてイライラするんだよ」
「……実際は敬語じゃないと怖いんだよ」
「あたしにできるなら問題なくできるだろ」
いやそれ、むかつくからやってやろうと思っただけだし……。
それに彼女は厳しいだけじゃないということも分かったし、そろそろ戻してもいいぐらいなんだけども……。
「というか名字、知ってたんだ?」
「ん? ああ、よく来る女子から聞いた」
その子とだって関わりはないのによく知っていたな。
委員長みたいな子だったから把握しているのが当然、みたいな感じだろうか?
「丸山は学校がつまらないのか?」
「ううん、つまらないということはないよ」
サボったりはするけど授業とかも別に嫌いじゃないんだ。
寧ろひとりでいることが多かった分、勉強ばかりしていたと言ってもいい。
だけど、親に言われたことを守るだけの人間というやつに飽きてしまったんだ。
あと、守ったところであの嫌われようだから意味がない。
だったら、ということで自由にやらせてもらっているのが現状だった。
「あたしは学校が好きだ、勉強が好きだ、周りのやつといるのが好きなんだ」
「そうなんだ」
聞けば聞くほど、同類なんじゃないか、などと考えていた自分がアホらしくなる。
同類なわけがない。
なんでも損得で考えてでしか行動することができない自分とは違う。
本当はクソ雑魚なのに強いフリをして生きている滑稽な私とは違う。
仮にいまとは違う自分がいたとしても、それでも、きっと同類レベルにはなれない。
「あ……ちょっと喉が乾いたからこれで」
「おう、今度からは嫌とちゃんと言えよ?」
「うん、ありがとう」
彼女と別れて違う場所に逃げる。
いいんだ、私は最初から最後までひとりで居続ければいい。
そうすれば少なくとも不特定多数の人間に迷惑をかけることはなくなる。
家族とだってなるべく家にいないようにすれば不快な気持ちにもさせないだろう。
幸い、現在は春だから外にいても辛くはない。
というか、冬だろうがしてきたことだからなにも問題はないんだ。
「ぐすっ……」
……こういうのだって見せなければ同情してほしいと考えて行動しているとか言われなくて済むんだからいいだろう。
私は私らしく生きるのが一番だった。
「眠い……」
昨日は遅い時間に帰宅したら母に物凄く怒られて不貞腐れていた。
そのせいで動画投稿サイトに頼らなければならず、まさかの二日連続徹夜になってしまった形になる。
さすがに対応できるのは一徹までだ。
「寝よ……」
結局、一日も達成できないまま終わることになりそうだった。
しかも寝ていたらバチが当たったのか雨が降ってきて濡れてしまったという……。
あと、濡れていたくせに気づくのが遅れたというアホさを晒しつつ、だけどどうでもよくなって濡れたままでいた。
中に戻れば濡らしてしまって面倒くさいことになる。
残念な点は屋上に屋根のある場所がほとんどないことだ。
風が吹いて斜めになれば屋根の下にいようが濡れてしまうから……。
「なにやってんだよ」
「ん……? ああ……、ただの暇つぶしだよ」
強い彼女が羨ましかった。
それと同時に、なんにも努力なんてしていないんだから羨む資格はないと、厳しく突く自分もいて忙しい。
いっそのこと、二重人格者とかだったらよかったのに……。
そうしたら強気な自分がほとんど対応してくれることだろう。
「風邪を引くだろ」
「大丈夫。私、そういうのには強いから」
行事がくる度に風邪を引いてくれと願ってきたものの、私は全敗したんだから。
逆に風邪を引きたくないと考えても、それでも駄目だった。
だからそういう部分では私は他者に勝てるかもしれない。
もっとも、無能が元気でも仕方がないけど。
「いいから行くぞ、タオルで拭いてやるから」
構ってちゃんみたいになりたくなかったから言うことを聞くことにした。
私だって嬉々として濡れたいわけがない。
そんなのは小学生ぐらいの子じゃないと考えないことだ。
「つかさ、せっかく来ているのに出席しないとかもったいないだろ」
「ちょっと眠くて」
「ちゃんと寝ろ、夜ふかしするな」
仕方がないんだ、ああやって発散しないとどんどん潰れていくだけなんだ。
私は弱いからそういう道具に頼るしかない。
不安になるから寝落ちするのが一番精神的に楽なんだ。
「終わったぞ」
「ありがとう」
「でも、ジャージとかに着替えた方がいい」
「……私、持ってきてないから」
「はあ? じゃああたしのやつを貸してやるから着替えろよ」
で、空き教室を使って着替えることになったんだけど……。
同性の子のやつとはいえ、なんだか気恥ずかしさがやばかった。
あと、変にいい匂いがするせいでそわそわ落ち着かない。
しかも先程まで濡れ鼠になっていた人間だから臭いかもしれないし……。
「ははは、でかいな」
……こんな風に笑ったりするんだ。
いつも可愛げがない感じだったのにあれはなんだったんだろう……。
「ま、濡れた服を着ているよりはいいだろ――って、下着はどうしたんだ?」
そんなの着替えなんか持ってきているわけではないから濡れているままだ。
そのまま答えるしかないから正直に吐いたらまた笑われてしまったという。
「時間が経過したら乾くだろ」
「……濡らしちゃうよ?」
「別にそれはどうでもいい、風邪を引かれなくて済むならそれでいいんだ」
「……こ、股間と胸の部分だけシミができちゃうよ?」
「変なこと言うな、そうならないように願って行動しておけ」
彼女はこちらのおでこを突いてから「あと、授業にはちゃんと出ろ、それじゃな」と残して歩いていってしまった。
ひとりでいたらそわそわして落ち着かないから教室に行くことにした。
遅れてくる度になにかを書かないといけないわけだからサボらない方が楽だよなと。
あとはあれだ、少し寝られたことで眠気も落ち着いたからこれから頑張ろうと決めた。
「あれ、どうしてジャージなの?」
「あ、さっき来るときに転んじゃって……」
「そうなのっ? 風邪を引いちゃわないように気をつけてね」
「あ、ありがとうございます」
……嫌なのは結局ひとりじゃ生きられないということだ。
ひとりぼっちの時間が多くても、必ずどこかで誰かと関わっている。
そしてたまにこうして優しい人達が目の前に現れるのだ。
私はこれまでそういうチャンスを無駄にしてきた。
自分が関わったら悪い結果になるだけだって考えて避けてきた。
だけどもし、私から近づくことを選んだのなら。
それで少しだけでも強くなることができるのなら。
……たまには頑張ってみる価値もあるのではないだろうか?
ただまあ、いまはとにかく授業に出席することだけを意識しておけばいい。
そこさえ守れば誰かに文句を言われることもない。
何度も言うけど、優しくされたくてこんな行動ばかりをしているわけじゃない。
私は私らしく生きているだけなんだ。
変わることを恐れているわけだから上手くいかない可能性の方が高い。
でも……。
「授業始めるぞー」
思考することをやめて授業に集中する。
勉強だけはちゃんとしているから分からないということはなかった。
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