第19話

 「主人が会いたいとおっしゃっておられます。来ていただけませんでしょうか」


 主人って誰よ。


 「どういたしますか?」


 私に振り返りメアリーが問う。

 もちろん、私は嫌だと首をぶんぶんと横に振った。


 「怪しい者ではありません。ぜひ、お願いします」

 「……ひ、人違いじゃありません? は、反応したのは、13番の方です……」

 「はい。そうですね。あぁ、あれは関係ありません。メアリー様をお連れするように仰せつかっております」


 なんですって!!


 「お嬢様。彼女は、王家専属騎士ですよ。よくわかりませんが、相手は王家の者のようです。たぶん、来てほしいとおっしゃっておられますが、拒否権はないに等しいかと」


 何だと周りもこちらを気にし始めていた。

 め、目立っている。


 「メ、メアリーも一緒よ」

 「もちろんご一緒で構いません。こちらです。どうぞ」


 そう言って案内されたのは、なんと馬車。

 王家の紋章が入っている。女騎士と一緒に私たちは乗り込んだ。


 「ご紹介が遅れました。私は、ランゼリー様の専属護衛のミリンと申します」

 「ランゼリー様って王女様!?」


 名前を聞きメアリーが驚きの声を上げた。

 自分で王家の者だと言っていたのに……。


 「それで、お嬢様にどのようなご用でしょうか」

 「私は、連れてくるように言われただけですので、わかりません」


 ううう。どうしよう。5年ぐらいずれちゃっただけだったのかな?

 ランゼリー様とランラドル様は双子で、ランゼリー様は水の属性を持ち、王子のランラドル様は火の属性をお持ちのはず。年齢は、17歳。魔法学園へ通われている。


 私は、小説でレイリーが連れ去れたのはマリッタのせいだと思っていた。彼女がレイリーを追い出さなかったのは、そういう策略をしていたからだと。

 だけど、レイリーと私が入れ替わり、記憶喪失騒動などがあって色々と変わった為、その策略は行われずにすんだ。

 6歳になった時にそう完結したのだ。そうしないと、いつまでも怯えて過ごさなくてはいけない。

 けどそうじゃなかったみたい。実際は、遅れていただけだった。


 私には、交換召喚はない。でも言語理解というのがあるからそれがどうなのか。ううう。幽閉されちゃうのかな?

 やっと、この世界にも馴染んできたというのに。


 「つきましたよ」

 「ここは?」

 「離れです」


 メアリーの問いにさらっと答えたけど、私が住んでいる屋敷より大きのですけど!?

 私達は、あんぐりとして見つめた。


 「さあ、どうぞ。お二人・・・様がお待ちです」


 二人ですって!? そうよ。彼女がランゼリー様の専属護衛だとしても待っているのがランゼリー様だけとは限らなかったわ。もしかして王様もいたりするの?


 門番がドアを開けてくれて、震えながらミリンさんについていく。階段を上り突き当りの部屋で歩みを止めた。

 トントントン。


 「レイリー様をお連れしました」

 「入って頂いて」

 「失礼します」


 ミリンさんがドアを開けると、そこには優雅にティーを嗜む二人が向かい合って座っていた。

 もちろん一人はランゼリー様。銀の髪を束ねアップに。私と違って高級そうなドレスをお召しになっていて……。

 向かい側には、銀の髪の男の子? いや私よりは年上だけど王子のランラドル様だろうか? それにしては、ランゼリー様より年下に見える。


 「どうぞ。こちらへ」


 ランゼリー様に促され、私は震えながら一歩一歩と近づく。

 後ろでパタンとドアが閉まる音が聞こえた。もう逃げられない。

 相手は、王様ではないけどその子供。何か託されているのかも。

 ルブックバシーをギュッと抱きしめると、大丈夫とすりっとしてくれた。


 「はじめまして。私は、ランゼリー・ラッヘ・リピリノア」

 「私は、ルハルト・ラッヘ・リピリノア」


 ラッヘってついてる。本当に王族だ。

 二人は銀の瞳で私をジッと見つめている。


 「お嬢様、ご挨拶を」

 「……レイリー・イヤーレッドです」

 「レイリーお嬢様の専属侍女です」


 私の声はもろ震えていた。

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