二人の間をとって

飯田太朗

第1話 はじめに

 エラリー・クイーンという作家を知っているはずだ。知らない? おいおい、それはちょっと勉強不足だ。


 エラリー・クイーンはアメリカの推理作家だ。フレデリック・ダネイとマンフレッド・ベニントン・リーという二人の人物が名乗った作家の名前。違う違う。二人がそれぞれ「エラリー・クイーン」を名乗ったんじゃない。「二人合わせて」エラリー・クイーンだったんだ。


 じゃあ岡嶋二人は? 知らない? 岡嶋っていう人が二人いるわけじゃない。「岡嶋二人」というペンネームだ。これも知らないか。じゃあ一体、何を知っているんだ? 


 岡嶋二人は井上泉と徳山諄一のコンビ名だ。これも「二人合わせて」の名前だ。二人が揃って「岡嶋二人」だった。彼らは二人で物語を紡いだ。


 そろそろ分かるだろう。共通点だ。エラリー・クイーンも岡嶋二人も、コンビで小説を書いていた。ミステリー小説だ。どっちがどんな分担で、なんてことはどうでもいいし、彼らもそれをあまり語っていない。極端な話、セックスの話のようなものなんだ。彼らにとって、「どっちがどんな分担をするんですか?」なんていう質問は「セックスの時はどっちが上になるんですか?」くらいの質問で、要するにセクハラというか、そんな個人的なこと聞いてどうするの? という印象だそうだ。


 全く同感だ。ただ、僕たちはもっと変態だった。僕たちは「どんなセックスをするか」公開する性質だった。いや、正確に言うなら「僕は」しゃべりたがった。だからこんなものを書いている。まぁ、感覚としてはガールズトークの「最近彼氏がぁ」に近い。そんな感覚で僕は二人のことをしゃべっていた。そしてこれからもしゃべる気でいる。


 ただ、ガールズトークと違うところは、これは既に終わった関係について話す、というところだ。つまり、より下卑た言い方をすれば「元彼のセックスがぁ」である。そんなことは誰も興味がないし、当人も話す意味がない。誰も得しない。何の価値もない。


 これからする話はそんな話。

 小川将吾、という作家の、セックスの話である。

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