第50話 ヒヨッコ卒業
当たり前だが、第一階層は何事もなく抜けた。
第二階層への階段の前で、三人が俺を振り返る。
「お前らのフロアで行く。誰でもいいぞ」
「えっ!?」
「お師匠様はご自分のフロアでしか案内なさらないのではないのですか?」
「……いいの?」
三人が目を丸くする。
そう言えば、こいつらには話していなかったか。
「
「どうしよう……地図を持って来てないわ」
おい。何のために地図描いたんだよ。
俺が
「……ある」
「ティア!」
「さすがですわ……!」
両側から二人に抱きつかれて、ティアは嬉しそうに耳を動かした。
やはり三人の中で一番しっかりしているのはティアだな。レナは直情的過ぎるし、シェスはしっかりしているように見えて案外抜けている。
「早く決めろ。じゃないと帰るぞ」
「ちょっとくらい待ってよ!」
「……選ぶ」
「どれがいいでしょうか?」
第二階層なら適当に決めても大差ないだろうからさっさと決めればいいのに、三人は頭をつき合わせて真剣に床に広げた地図を見ていた。
「課題中に一番多く通ったのはシェスのフロアよね」
「……複雑」
「そうね。整理した地図で見ると、思ったよりも複雑だわ」
「扉を開ける魔力を節約するならわたくしのフロアですが、ティアさんのフロアの方が単純です」
「最短距離でいくならあたしのフロアね」
レナがちらっとこっちを見た。
「早くしろ」
助言をする気はない。こういうのは自分たちで探っていくものだ。
俺なら最も単純な構造のフロアを選ぶ。
多少ゴブリンが集まっていようが、この三人の敵ではなくなっているだろう。
かといって、掃討しておかないと戻りが不安だ。第十階層まで行けば疲労も大きいから、帰りの負担は軽くしておきたい。
となれば、奥の部屋まで見にいかなくてもいい、単純な構造のフロアで
「一番慣れてるシェスのフロアにしよう。注意しないといけない所もわかってるし、先は長いから、無理をしないで確実に行きたいわ。前と違って時間制限がある訳じゃないもの」
「そうですわね」
「……賛成」
三人がこっちを見たので、俺は肩を
「いいんじゃないか」
ベストではないが、決めたのならそれを尊重するだけだ。どれでもいいし、口を出す気もない。
「じゃあ、シェスのフロアね。シェス、開けて」
「はい」
シェスを先頭に階段を降り、シェスが扉に両手をつけて魔力を込めると、ずずっと扉が奥に開いた。
「第二階層はスライムとゴブリンね。スライムは私が倒すから、ゴブリンを二人でお願い」
「……うん」
「わかりましたわ」
もう何度も来ているだろうに、三人はちゃんと確認していた。
慣れてくるとこの辺が
テストだからと力んでいる様子もないから、今までもこうやって都度確認していたのだろう。
ダンジョンでは気を抜かずに確実に。
以前案内した時の俺の方針が身についている証拠だ。
この分じゃ、第五階層までは余裕だな。
階層をクリアする度に誰のフロアにするのか熟考しながらも、俺たちは順調に進んで行き、第五階層の休憩部屋に泊まる事になった。
初回は第二階層、二回目は第四階層の休憩部屋だったことを思えば、随分成長したものだ。
途中の休憩部屋に寄らないという判断も正しくできていた。
疲れたらその場でポーションを飲んで、時間のロスを最小限にしていた。この位の階層なら、三人にはもう
「疲れたわね」
「……早かった」
「しばらく地図を描きながらの攻略でしたものね」
俺の寝袋とは対角線に位置する場所に三つ並べて寝袋を敷き、三人は夕食を食べ始めた。
その手にあるのは俺と同じで干し肉だ。
「このボソボソの食感にもだいぶ慣れたわよね」
「……効率的」
「ええ、かさばらない所がいいですわ。軽いですし、お腹に溜まります」
課題の間、地上に戻ってフロアがリセットされるのを嫌って、できるだけ補給をしなくていいようにしただろう。そうすると、食事は自然と干し肉に行き着くことになる。
三人の手元を見た感じ、一番安い肉だ。
シェスの父親の資金のあった以前とは違って、今はモンスターのドロップ品を売るしかない。そして、第五階層までのドロップ品では大した金にはならない。
回復用のポーションを節約しようとすれば日数がかかり、食糧を消費する。
最初に道具とアイテムを持たせたとは言え、ギルドからの支援品だけではカツカツだっただろうと思う。
シェスが魔法で追加の水を出すのを尻目に、俺は水筒の水を飲んだ。
フロアでの振る舞いもそうだったが、こうして休憩部屋の様子を見ると、どうやらヒヨッコは卒業したみたいだな。駆け出しの冒険者といったところか。
無理やり取らされたが、弟子が成長するのを実感するってのは、案外悪くなかった。
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