第43話 暴虐の雷
第二十階層のボス部屋は、何の変哲もない石造りの立方体の空間だ。
「またハズレか。通常のボス部屋だね」
シグルドががっかりしたように言った。
扉が閉まって明かりがつくと、奥の壁からぽこぽこと大量のスライムが出てきた。
それらは合体してみるみるうちに大きくなっていく。
成長が止まると、一体の巨大なスライムになっていた。
ボスの名前は
要はでっかいスライムだ。
だが、たかがスライムと
魔法防御力は極端に高く、物理攻撃で粘液部分を削ったとしてもすぐに合体して再生する。体の中心の
相手の攻撃力は、第二十階層のボスの割には高くはないが、とにかく倒すのに時間がかかる。実力がないパーティだと数日単位かかることさえある。
無限に動けるモンスターと違って、食って寝ないとならない人間にとっては強敵だった。
だが――。
「クロト、頼むよ。どかんと一発」
「確かめなくていいのか?」
普通のスライムキングとは攻撃力が防御力が違うかもしれない。
「いいよ。ここまでボスはみんな普通だったし。やっちゃって」
「へいへい」
俺は首をごきっと鳴らしてから、魔力を練った。
パンッと体の前で手の平を合わせる。
両手をゆっくりと離していくと、その間に小さな雷が生まれた。
バチバチと音を出しながら拳大まで成長したそれを、片手で握って振りかぶる。
ぽいっと投げた雷の塊は、スライムキングの真上で停止した。
「
ドガンッ
大音量の落雷を受けたスライムは、バラバラに飛び散った。
中心に残った核が、パキンと割れる。
「ふぅ」
魔力の放出を止めて横を見ると、シグルドとアメリアの全身にべったりと粘液がついていた。ホラスは斧で防いだようだ。
「スライムキングの高い魔法防御力を軽く
言っている側から粘液は黒い霧となって消えていく。
「消えるんだからいいだろ」
まあ、俺は嫌だけど。
第二十一階層。ここからが正念場だ。
これまでのように、
アメリアの索敵には近距離じゃないと引っかからなくなるし、すり抜ける奴も出てくる。
そうなると、フロア内の全ての部屋を掃討するまではいかなくても、移動経路の周囲、ある程度広い範囲のモンスターは潰しておかなくてはならない。
ホラスや俺の一撃で沈めることも、シグルドの範囲魔法で
シグルドは見た目の割に回復や補助は苦手だから、ポーションなどのアイテムが使われだすのもこの辺りだ。
が、ばんばん買って使ってもらえてありがたい、と手放しで喜べるわけではなかった。
ここまでくると、アイテムの有無が生死を分ける。なるべく使われずに手元に残しておきたいというのが本音だ。
持ってきている食料なども減ってきた。全員余剰分も持ってきているとはいえ、帰りのことも考えなくてはならない。
何かがあれば、そのフロアの休憩部屋に足止めを食らうこともあり得る。
……とはいえ、最強パーティであるだけはあって、他のパーティよりはずっと速く進むことはできた。
つっても、俺はこの三人としか下層に潜ったことがないようなものだから、一般的な速度ってのは聞いた話でしかなくて、他のパーティがどう立ち回っているかなんて知らないんだけどな。
表向き俺は
そんな訳で、一階層を二日から三日で攻略するという超スピードで、俺たち四人は第二十五階層のボス部屋までやってきた。
もちろん直前に休憩部屋に行って十分に休憩を取り、補助効果のあるポーションも飲んである。
「準備はオーケー?」
シグルドが俺たちを見る。
今までのボス部屋ではこんな確認は一度もなかったが、第二十五階層のボスともなると、そうほいほいと開けられるものではない。
ここのボスは開けた途端に攻撃をぶっ放してくるから尚更だ。
「ホラス、最初の防御は任せた。っていうか、全部よろしく」
「わかっている」
「アメリア、基本的には
「はい」
「クロトはとにかく攻撃」
「ああ」
「僕はクロトの援護をする」
ホラス、アメリア、俺の三人がそれぞれオーラを高めた。
最後に四人でうなずき合う。
シグルドが扉に両手をつけ、魔力を込める。
ずずっと扉が動いた。
ゴウッ
まだ
それを、シグルドと入れ替わったホラスが
「んー、やっぱハズレか。普通に第二十五階層のボスだね」
「よかったじゃないですか。第三十階層のボスだったら、その時点で大
「まあね」
軽い口調で言いながらも、二人はホラスに吹き付ける炎のその先から目を離さない。
「切れるぞ」
俺は、炎の
大きく開け放たれた扉の向こうは、
そこで待ち構えていたのは、このダンジョン最大の超大型モンスター、ドラゴンだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます