第26話 補充
三人は多少手こずりながらもその大部屋をやり過ごし、先へと進む。
「困りましたわ」
たどり着いた休憩部屋で、シェスが荷物を広げながらため息をついた。
「どうしたの?」
「思ったよりも魔力ポーションの消費が激しくて、このままだと足りなくなりそうです」
「実は……あたしも回復ポーションが少なくなってきてる」
「……同じく」
「第十階層は戦闘が激しくなるでしょうし、ボスもいます」
シェスがちらりと俺に視線を寄越してから、レナを見た。ティアはじっと俺を見ている。
きたきた。
「わかったわ、仕方ないわね」
レナが諦めたようにため息をついた。
「――そこの
「酷い言い方だな、おい!」
そう言いながら、俺の口元は緩んでいた。
この三人、予想以上に多くのポーションを持ってきていた。女の
準備が肝心だと教えたのは俺だから、なんだか複雑な気分だったがまあいい。
ついにこの時が来たわけだ。
俺はでかいリュックの中から次々と
色とりどりの液体が入った瓶がずらりと並んだ。
「各種ポーションより取り見取りだ。シェスの魔力消費量なら、魔力ポーションを使うより、耐火ポーションを使った方が結果的に安上がりだぞ」
「確かにそうかもしれません」
「
感心したように言うシェスと、憤慨するレナ。
心外だな。買う前に教えてやったんだからむしろ親切だろう。
「一度に買うとあたしたちの荷物が増えるだけだし、少しずつ買うわ」
「まとめて買うなら値引きしてやる」
俺はにやりと笑った。
「でしたら、今後必要と思われる分を一度に頂いた方がいいですわね」
「最っ低!!」
「……商売上手」
何を言う。値引きも親切心からだ。本来なら運賃を入れて、階層が下がるほどに値上げしても良いくらいだってのに。
俺の優しさをわかってくれるのはティアだけか。
「買うわよ! 買うしかないもの!」
レナがごそっと小瓶を自分たちの方へと寄せた。シェスが何本かそこに追加する。ティアは気付け薬の小瓶を取っていた。それかよ。
「支払いは保証金から取ってよね!」
「わかった」
「報酬二倍だなんて言うんじゃなかったわ……
レナがぶつぶつと悪態をついたが、全く気にならない。俺にとってはむしろ褒め言葉だった。
「ドロップ品を売れば金が入ってくるぞ」
「それでも赤字でしょっ。第十階層までじゃ大した金額にならないのは知ってるわ!」
「腐った肉は結構いい値段で売れる」
それでも赤字だろうがな。俺の案内料を除いたとしても。
俺が腐った肉の話題を出したら、ティアがげっと顔をゆがめた。耳と尻尾の毛がぶわりと広がっている。相当なトラウマのようだ。
ここまでゾンビと戦ってきて、その
三人は俺から買ったポーションを分担して持ち、少し休憩を取ってから、次の部屋へと向かった。
今日はこのフロア突破まではギリ行けるかどうか、か。
――そう思ったのだが、案外三人は健闘した。
ポーションの残りを気にして、セーブして戦っていたのかもしれない。
補充をして安心したのか、逆にレナが突っ込み気味になっているのは気になるが、シェスが上手く補助魔法で支援していて、まだ口を出す段階ではなかった。
さっそく俺が売ったポーションが役に立っていて何よりである。使うとき、レナが一瞬嫌な顔をしたが、見なかったことにした。
俺の予想に反し、三人はこの日のうちに第九階層を突破した。
そろそろ休憩部屋に戻る事を考えた方がいいだろう、という
モンスターの種類は第九階層と変わらず、出現する数が増えるだけだけだから、様子見なんていらないと思うのだが、攻略も終わりに近づいてきて、時間のあるうちに少しでもモンスターの数を削っておきたい、という心理が働いているのだろう。
「この分かれ道を曲がって、右側の部屋を片付けたら戻るわよ」
「わかりました」
「……うん」
俺が渡した地図を確認し、部屋を二つ行った先、通路が二股になっている先の部屋まで行くことになった。
もう一方の部屋からモンスターが出てきたら挟撃される心配がある。
分かれ道の前でやめておくのがセオリーだが、まあいいだろう。
俺は三人に任せることにした。まだ時間はある。
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