第4話 初めてのダンジョン
口調は
ちゃんと警戒しているし、一番下の段まで降りたときにも、闇雲に飛び出したりせず、階段から部屋の様子を
シェスとティアも、後続だからと気を抜かず、周囲に意識を巡らせていた。
「何もいない、みたいね」
危険がないことを確認してから、レナがゆっくりと部屋の中に入って行った。
階段もそうだったが、部屋の中は洞窟の中のような様相だ。岩肌も地面もごつごつとしている。かといって歩きにくい程ではなく、きちんと整備されている。
明かりも何もないのに、視界に困ることはない。暗闇のフロアもあるが、そうでない階層はみな程よく明るい。
壁や床は何をもってしても破壊することはできない。入り口の岩も同様だ。武器でも、魔法でも、モンスターの攻撃でも。部屋や床をぶち抜いて攻略することは不可能だった。
このような空間が各人に合わせて生成される仕組みは謎で、世界中の研究者によって様々な研究がなされているが、まだ何もわかっていない。ただそういうものだと認識されているのみだ。
三人は、部屋の出口を凝視している。そこからモンスターが入ってこないかと警戒しているのだ。
「第一階層にいるのはスライムだけだ。わかるか、スライム。遠距離攻撃はしてこないからそんなに警戒しなくていい」
「知ってるわよ、スライムくらい!」
「学校の
「……
そう言いながらも、三人は出口から目を離さない。いい心掛けだ。
「これがこのフロアの地図だ」
俺が
「あたしが見張ってるから、シェスとティアで確認して」
「わかりましたわ」
「……うん」
シェスが俺から地図を受け取って、全体を眺める。
「これは……!」
「……!!」
二人は目を見開いた。
「どうしたの? ……ねぇ、どうしたのよ?」
一人地図を見ていないレナが不安そうに声をかけると、シェスがあごに手を当てて、首を
「よくわかりませんわ」
「……複雑」
「何よ、もう。何かあるのかと思って心配したじゃない。……確かに複雑ね」
地図をちらりと見たレナが顔をしかめる。
迷路みたいなもんだからな。
「シェス、見張り変わって」
「わかりましたわ」
「ええと……今はここ、よね。で、部屋の出口があっちで、第二階層への階段がここだから……最短距離はこうかしら」
地面に置いた地図を指でたどるレナ。
「……こっち」
「そうね。こっちから行くのがよさそう」
「最短距離で行くつもりなのか?」
レナとティアの話を聞いて、俺は質問を挟んだ。
「そうよ、当たり前じゃない。あたしたちの目的は第五階層を攻略することで、フロアの一掃じゃないもの。真っ直ぐ行って帰ってくるのが一番効率的でしょ。ていうか、案内人のあんたの指示に従ってるけど、明日と明後日でちゃんと第五階層まで攻略できるんでしょうね?」
「それはお前たち次第だな」
「なっ!?」
「当然だろ。お前たちがぐずぐずしてたら進まないんだから。心配するな。一応第五階層まで案内するのが契約だ。たどりつけなかったら金は返す。使ったオプション分はもらうけどな」
「それじゃ困るの! 絶対に攻略しないといけないんだから! もう、やっぱりこんなヤツに頼るんじゃなかった!」
「今日のお前たちの様子を見て、二日間で無理そうならアランに繋いでやるよ」
俺が頭の一つでも下げれば、あいつは嬉々として請け負うだろう。
「……嫌」
「変態は御免よ!」
「わたくしもご遠慮したいですわ」
ティアが耳をぺたりと寝かせた。レナも盛大に顔をしかめる。背中を向けたシェスまでもが声を上げる。
「俺が変態じゃない保証はないけどな」
「少なくとも、受付のお姉さんは信用してるみたいだったもの。そこは信じるわ」
「……信じる」
「信じます」
信じると言われて悪い気はしないが、他人を無条件に信頼できるってのは若さだよなぁ、とも思う。
「俺は金になれば何でもいいからな。お得意様になってくれりゃ、サービスするぜ」
「あんたとも今回限りだから」
「……
なんとでも言え。俺には金が必要なんだよ。
「よし、ルートはこうね」
レナが示したルートを一応俺も頭にいれておく。当然だがフロアの構造は地図を見るまでもなく頭に入っている。
一番効率のいいルートではないが……まあ、指摘はしなくてもいいだろう。様子見だし。
腰のポーチに地図をしまったレナが剣を抜く。
「よし、じゃあ行くわよ。二人とも、スライムだから近づきすぎないでね。取りつかれたら面倒だわ」
「ええ」
「……うん」
「あと、あんた、何もしないなら私たちの足手まといにもならないでね」
「ならない。俺がピンチになっても助けなくていい。俺が死んだら荷物は好きにしてくれ」
「当然でしょ」
レナは剣を構え、部屋の出口から通路へと入っていった。
階段同様、後ろに続くのはシェス、ティアの順だ。
てっきり近接型のティアが二番手なのかと思っていた。一撃目を受け止めたレナの影から飛び出して、一気に間合いを詰めて戦うスタイルを予想していたのだ。獣人なら一番前でもいいくらいだ。
だがこの配置からすると、どうやらそうではないようだった。
曲がり角のない通路を進むと、すぐに次の部屋だ。
「スライムがいるわ。一、二、三……全部で五体。多いわね。通路に誘い出す?」
「……広い」
「そうですわね。部屋が広いので、一体ずつ倒せば問題ないと思いますわ」
「じゃあ、危なくなったら戻ってくるわ。支援お願いね」
「ええ」
「……うん」
俺の存在は無視された。まあいいけど。何もする気ないし。
「行くわよ」
三人でうなずき合うと、レナが通路から飛び出した。
「せいっ」
一番近くにいるスライムを両手剣で一刀両断。一撃でコアを破壊する。
なかなか鮮やかな剣筋だった。初めてのダンジョンでも、緊張による硬さはない。
冒険者学校主席卒業の肩書は
レナは今度は二体でうにうにと揺れているスライムへと走り寄る。
そのうちの一体をまたも
しかしレナは返す刀で露出したコアを破壊した。
レナに襲いかかろうとしたもう一体の方へは、ファイア・ボールが飛んでいった。ぼよんと後ろにわずかに押されたスライムを、レナが倒す。
ファイア・ボールを
獣人なのに後衛の魔法使いって……。
腕に着けてる
まあ、適正は人それぞれだけどなぁ。
次々にスライムを倒していくレナを見ながら、俺は首を傾げた。
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