アンギフテッド
藤田 芭月 / Padu Hujita
アンギフテッド
14年前、暗闇の世界から向こうの都合で光へと連れ出された。
僕はその時から、正確に言うと暗闇にいたときからそのたちが見え隠れしていたが、何でも知っていた。言葉の喋り方も歩き方も、自分がどのようにしてこの光の世界に堕ちたのかも。神は僕にすべてを与えたのだった。
両親からは良く愛されていた自信がある。「博識」なんて言葉が可愛くきこえるほどの、そんな気味の悪い僕を愛してくれていた。だが、悲しいことに、世間というのは両親ほど温かくはなかった。もちろん、分かりきっていたことではあったが、知っているのと、経験するのとではまるで勝手が違う。特に、僕が産み堕とされたこの日本という国民は、でる杭を地にのめり込むまでたたく傾向がある。
僕は、このまま生きていたら、どれほどの苦しみと憎しみが生涯にわたって付きまとうのかをよくわかっていた。
風が僕を落とさないようにと、慎重に風向きとその強さの調整をしている。神は、僕に人生のリセットボタンを簡単には押させてはくれないらしい。神からしてみれば、自分の造った傑作品が無くなってしまうのだ、神が芸術家でもない限り止めに入るのは当然のことだろう。
ふと下の方に目をやる。僕と地面の間には、16メートルほどの空間。
僕が今からする行為にどれほどの痛みが伴うのか、よく知っている。神が今簡単には僕を落とさせてくれないように、死に神も簡単には僕を開放してはくれない。
僕は知りすぎているせいで、人を悲しませることも多かった。
女はよく泣くことを知ってはいたが、具体的にどの程度のことで泣くのかは、生憎わからなかった。そんなこんなで女には至極嫌われた。デリカシーのない奴だと。
男は同性での結びつきを築くものだと知ってはいたが、僕には連れションやクラスの女の評論会は、理解ができなかったし、興味もなかった。そんなこんなで男にも至極嫌われた。空気の読めない奴だと。
短い人生だったが、しょうがない。僕は神から与えられすぎた。
「次があるのなら、僕は平凡に生きたい」
目をぬぐって、僕は覚悟を決めた。
そのとき、屋上の扉が勢いよく開いた。
「才川!」
驚いて振り返ると、隣のクラスの鹿山が息を切らして、こちらを悲観するような目でにらんでいた。
「何やってんだ!」
鹿山は怒っているのか、語気を強めてこちらへと来る。
「鹿山…」
「とにかくっ!そこから降りて!早く!」
鹿山の勢いにつられて、僕は屋上の縁から降り、新しく買った上履きを履いた。
「何でここに来たんだ」僕はそっけなく鹿山に聞く。
「なんでって…、そりゃあ、お前のことが心配で、なんか難しい顔で、屋上いくお前をみて、その、もしものことがあったら、どうしようとか、なんか…」
鹿山は息を整えながら、しどろもどろに話した。
「って、そんなことはどうでもいいんだよ!才川、お前なんで、なんであんなことしようと思うんだよ。俺の、俺のこの気持ちはどうすればいいんだよ」
僕はびっくりして、目を見開いた。鹿山が突然泣き出したからだ。
「鹿山、どうして泣いているんだ。僕がどうなろうと、君には関係ないだろ」
「関係大有りだよ!俺は、俺はお前のことが」鹿山は、深呼吸する。「俺はなぁ、その、好きなんだ。…お前のこと」
突然の鹿山の告白に驚きが隠せず、鹿山の腕をつかむ。
「どうして、どうして僕なんだ!僕には他人の気持ちなんてわからない。だから、お前と付き合っても、いつか傷つけてしまうことになる」
「えっ!?それって、俺と付き合ってもいいってこと?」
呆れた。鹿山は学年一の馬鹿ということを忘れていた。
「僕はお前の告白に拒否はしないよ。でも、本当に僕でいいのか。知らずしらずのうちにお前を傷つけてしまうかもしれないんだぞ」
鹿山はポカンとした顔を浮かべている。次に、何かわかったような顔をして、僕の腕をつかむ。
「俺は才川がいいんだ!」
鹿山の素直や告白にこっちが照れてしまう。僕は下を向くしか、この恥ずかしい顔を隠す術はなかった。
「鹿山、これから、よろしくな…」
「うんっ!」
鹿山は僕の返事を聞くや否やおもいっきり抱擁を交わしてきた。
言動だけではなく、行動も直球表現だった。
神はなんて意地悪なのだろう。僕にいろいろな無駄なものを与えておきながら、本当に大切なものをくれないのだから。僕はこの充足感を、なんといって良いのかまだわかっていない。神もきっと何もわかっていないのだろう。今、僕が鹿山の胸の中で泣いている理由も神ではなく、きっと鹿山が教えてくれるだろう。
アンギフテッド 藤田 芭月 / Padu Hujita @huj1_yokka
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