第78話 初恋の責任
「高崎、見て来い」
「はーい」
「あ、俺も行く」
授業も終盤に差し掛かるというのに、一条優が化学室に来ない。いとこの高崎明翔が名指しされたけど、俺もついて行く。
「なんで深月まで優を探すんだよ」
「なんとなくだよ。一条が化学室の場所覚えてないのすっかり忘れて置いてきちゃったから」
「別に深月のせいじゃないじゃん。まだ覚えてない優が悪い」
「まー、そうなんだけどさ」
「やっぱ初恋相手だからほっとけないの?」
「そっ……そんなんじゃねーよ! 何を昔の話してんだよ」
「ふーん、昔ねえ」
「なんか変だぞ、明翔」
「俺変なのかな。深月が好きすぎて昔の話でも気になる」
「明翔……」
一条の姿は見えないけど、とりあえず2年1組の教室に入った。ここなら、今は誰もいない。
「俺も小学校の時に戻って、一条を好きだった自分を消せるものなら消したいよ。明翔がそんなに気にするなら」
「いいの? 深月にとっては大事な思い出でしょ」
「うん、何も言えなかったなりに大事な思い出だけど、俺には明翔の方が大切だから」
「……ありがとう、深月。やっぱ変だよね、小学生の時の優にヤキモチ焼くなんて」
照れて笑う明翔が超かわいい。思わず抱きしめて頭をなでる。
「深月。俺のこと好き?」
「好きだよ。明翔は?」
「好き! 今俺もすっごく聞かれたかった!」
満面の笑みの明翔に思わずつられる。行動でも伝えたくなって、明翔の唇に引き寄せられる。
だが、たどり着く前にカツーンカツーンと廊下を歩いて来る音が聞こえた。
「やべ! 他の先生に見つかったらサボりだと思われる!」
「深月! ロッカーに隠れようぜ!」
掃除用具入れの隣の空っぽのロッカーを開ける。
「うわ!」
「びっくりした!」
中に、本を手にした一条が入ってて死ぬかと思うほど驚いた。
「何してんだよ、一条!」
「どうしてもこの本を読みたくて教室に残ってたら明翔と呂久村の声が聞こえたから、何かおもしろい光景が見られるかと思って隠れてた」
「隠れるな!」
「おかげでいいもの見れたよ。ボクが原因でケンカからの仲直り。眼福」
「俺と同じ顔でうっとりするな!」
え! ていうか、俺が一条のこと好きだったって知られた?!
そして、この感想。ひどくね? 人の初恋を何だと思ってやがる。
「あー、もう授業終わっちゃうよ」
「いーか。このままチャイム鳴るの待つか」
3人で席に座ると、案の定すぐにチャイムが鳴る。しばらくするとクラスメートたちが続々教室に戻って来る。
「あ! 深月、明翔! 戻って来ないから筆箱とノート持って来たんだよっ」
「おー、ありがと、颯太!」
佐藤颯太がテテッと小走りでやって来る。
「あ、ショタ」
「え? あ、何?」
一条に呼ばれて、颯太が一条の席へと寄る。
「あの……今、逆身長差カップルが流行ってるんだって」
「逆身長差?」
「女の方が背の高い身長差カップル」
「そうなんだっ? じゃあ、えーと、動画の収益化のために、俺とカップルチューバー、やる?」
「うん、いいね、収益化のために」
颯太と一条が真っ赤な顔して笑い合っている。のを俺と明翔がニヤニヤしながらあざ笑う。
クラスの男子で唯一、明翔に対して男は男だからと興味ナシの颯太にとって、一条は男装してても女子は女子なんだろうな。
「なーにが収益化のためにだよ。素直じゃないねえ」
「あれが優の理想のBLなのかな」
「任侠道に生きる隠れヤンキーのかわいいショタと男になって男とBLしたいこじらせ腐女子のカップリングか。そりゃ理想のBLに出会わなかったはずだわ」
「深月ってBL詳しいんだ?」
「え?! いや俺BLに興味なんてないから! 俺腐男子じゃねーから!」
「なのに、そんな専門用語?」
「違う! 腐女子があるなら腐男子もあるんだろーなって推理できる範囲内!」
「そっかー。俺、優の腐教活動のせいで腐男子化しちゃってんだよね」
「そうなの?! じゃーぜひ紹介したい神がいるんだよ!」
「神?」
スマホを見せて明翔と顔を寄せ合う俺たちを見つめる人物がいることに俺は気付いていたけれど、軽く無視する。
「はあー、やっぱり高崎くんにお似合いなのは呂久村くんだよねえ」
「はあー、僕、実は佐藤くんのことが好きだったんだけどなあ」
同時にため息をついた黒岩くんと学級委員長、柳龍二の目が合った。
「黒岩くん……黒岩くんとは女装の話くらいしかしたことなかったけど、迷惑じゃなければ隣に座ってもいいかい?」
「あ、うん、どうぞ!」
こうして、ラストにはなぜか怒涛のカップリングラッシュもお約束のひとつな。
明翔に神のブログを見せていると、前に書き込んだ俺のコメントに新たな返信がついてることに気が付いた。
「初恋の責任は取れましたね」
え……ちょっと待て。
俺たちは表向き、これまで通り親友ということになっている。
俺と明翔のことを知ってるのは……
神って、全然知らない遠くの大人だと思い込んでいたけど、まさか……まさか?!
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