第74話 謝罪と交渉
俺たち聖天坂高校の5人が縁もゆかりもない男子校で、床に寝そべりうめき声を漏らす4人のヤンキーを見下ろしながら頭を抱える。
「柳、警官の親父さんに連絡してもみ消してくれ」
「それはできない。と言うか、こんなことが公になったら父の立場もない。僕の父は少年捜査課だ」
「内々で納めてもらうしかないか」
「うーん……」
「彼らが何のために一条くんを拉致したのかを考えてみよう。一条くん、ここに連れて来られてからのことを話してくれないか」
さすがは学級委員長サマ。こんな時でも冷静だ!
「車から降ろされてこの教室に連れて来られて、ボクを見ながらそこの大量の服の中からこの制服を選んで着せようとしてきた」
一条が教室の後ろを指差した。机がいくつも合わせられ、その上に大量の制服やメイド服やチャイナ服などなどが並べられている。
多種多様なウィッグ、ネコ耳やバニー耳などまである。
「なんじゃこりゃ」
「一条くんにコスプレをさせたかったのかな?」
「とりあえず、女の格好をさせたかったのは確定だな」
「よし、高崎くん、この中から好きな服に着替えてくれ」
「は?!」
「謝るにも誠意を見せないといけない。彼らは一条くんだけをさらったが、同じ顔の高崎くんが女装していれば彼らにしてみれば2倍楽しいはずだ。許してくれるかもしれない」
「コイツら優だけが女だって分かってんじゃねえの? 女装なんか意味ねえよ」
「いや、明翔。あると思うよ。男だと分かっていてもお前の女装には意味がある」
「そうそう、いっとこう、明翔」
俺と颯太もお相手に許してもらうため、説得を試みる。
「もう1セット同じ制服があるから、これにしよう。彼らがこれを選んだってことは、一番のお気に入りなんだろう」
柳が明翔に一条と同じエンジの制服を手渡す。嫌そうな顔をしつつも渋々受け取った。
明翔が着替えている間に、俺たちは教室を隅々までキレイに掃除したり、お菓子とジュースを買って来たり誠意を準備する。
うーん、と山手男子高のひとりが目覚めた。
緊張が走る。骨折とか脳内出血とかごまかしようのないケガを負わせてはいないだろうか。カメラで頭を殴ってしまった男子だ。カメラの方も無事だろうか。弁償などはしたくない。
頭に手をやり、顔をしかめつつ更に頭を振る。お、頭部の損傷はなさそうだ。となれば、あとは、誠心誠意、謝罪あるのみ!
「ほんっとうに申し訳ありませんでした!」
「頭殴ってごめんなさい!」
「腹蹴ってすみません!」
「悪かったね。だが僕も手を骨折してしまってね」
「まずはちゃんと謝れ! 柳!」
全く、この期に及んでいらんこと言って火に油を注ぐんじゃない!
「あ……あ……」
男子生徒は、ロングヘアのウィッグをかぶりブレザーとスカートをきちんと着た一条と明翔が並んでいるのを見て言葉もなく口をパクパクと動かしている。
「あの……私たちが精一杯おもてなしするので、許してもらえませんか?」
ふたりそろって男子生徒の前で手を合わせてお願いをする。颯太と柳によって細かい演技指導がされていた。その甲斐あって、めちゃくちゃかわいい。
「は……はい……許します……」
「ありがとうございます!」
言質を取った、とばかりに大声で礼を言う。
他の3人も次々と目覚める。
幸い、大きなケガをした者はいない。良かった。マジ良かった。
「カメラも大丈夫ですか?」
「あ、良かった。ちょっとへこみはあるけど使えそうです」
良かったー。カメラなんかバカ高い可能性あるからな。無事で良かった!
「どうしてカメラなんて? 一条くんをさらってどうするつもりだったんだい?」
山手男子高のリーダー格は、今柳が偉そうに話しかけている遠藤歩夢というファンシーな名前の厳つい顔したヤンキーだ。一番ケガがひどく、いまだ鼻血が止まらない。
「ヤンキーも金がなくちゃ活動できねえ。写真集を作って校内で売りさばき資金源にするつもりだった」
「なるほど、写真集か。それでこんなたくさんの衣装を用意していたんだね。提案だ。その写真集作りに全面協力する代わりに、今回のことはなかったことにしてもらえないだろうか」
「ああ?! 一方的に痛めつけといてなかったことにだ?!」
「お怒りはごもっとも。だが取引といこうじゃないか。無償でこのふたりを進呈しよう。好きに撮ってもらって構わない。もちろん、売り上げはすべてそちらのものだ」
柳が遠藤歩夢の前に一条と明翔をずずいと押し出す。
「え……好きに?」
「デートなう的なコンセプトなんてどうだい? 男子校では叶わない授業中に隣の席の女子とこっそり手紙の交換をするシチュエーションなんかもウケそうじゃないか? 先生にバレないようにやりとりをするドキドキ感」
「おお! いいなそれ! 共学ではこんなかわいい子と授業中にそんなことできんのかよ!」
「さらに、ひとり1枚、いや、お詫びの気持ちを込めて3枚まで彼女たちとのツーショット写真も付けよう」
「マジか!」
「さらにさらに今回だけ特別に、彼女たちからほっぺにチューも付けよう」
「おお! 乗った!」
「よし、交渉成立だ」
遠藤歩夢と柳が合意の握手をしている。
あのクソパンツ王子、ツーショットだのほっぺにチューだの、何を勝手な交渉をしとんじゃい!
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