第69話 柳龍二の無断欠席
新学期が始まった。
全身真っ黒に日焼けしてるヤツらもいれば、ずっと塾や予備校に通っていて半袖半パン焼けのヤツらもいる。
「あれっ? 柳は?」
「学級委員長サマが遅刻なんて珍しいな」
いつも誰よりも早くに登校して換気をしたり机をまっすぐに並べ直したりして、俺らが登校する頃には女子に囲まれている柳龍二の姿がない。
「メッセージ送っても既読にならないし、電話しても出ないの。どうしたんだろう、柳くん」
柳ガールズと一条ガールズに二分されているこのクラスにおいて、両方に属するモブ女生徒ゆりがスマホを手に不安そうな顔をする。
「寝坊じゃね?」
「深月じゃないんだから。柳くんに限ってあり得ないわ」
「え、柳来てないのか? 始業式で生徒代表あいさつあるのに」
教室に入って来た担任教師も驚いている。学校にも連絡してないってことか……。
始業式が終わっても、柳は現れなかった。終わってから来ても何しに来たって言うけどな。
「どうしたんだろうねっ? やっぱり既読にならないよ」
「……見れない状態?」
「寝てんだろ、だから。今日から学校だって忘れてるだけだよ」
「呂久村じゃないんだから。柳はそんな失態は犯さないよ」
「だから、なんで俺ならあると思ってんだよ」
明翔、颯太、一条と共に校門へと向かう。
「まあ、柳も深月と同じ人間だから寝坊くらいするかもねっ。みんなで起こしに行こっか? もう学校終わったよって」
「俺と柳の共通点は人間ってとこしかねえのか」
「もしかしたら体調不良かもしれない。そしたらお見舞いできるし、行こ行こ」
「昨日のお祭りではあんなに元気そうだったのに」
「夏風邪は突然やって来るからね」
「明翔のようにな」
みんなで柳の家へと向かう。よく一緒につるんでる俺たち5人の中で柳の家が一番遠い。
「え、あれ……柳?!」
颯太の指差す方を目を凝らして見ると、柳の家のほど近く、ゴミ捨て場の奥の暗い路地にボロボロのうちの高校の制服を着た金髪の男が塀にもたれて座り込んでいる。
「柳だ! よく見えたな、颯太!」
「血を流した人間を俺は見逃さねえ!」
「血?!」
本当に狭い路地だ。体の大きい俺は塀に肩をぶつけながら入って行く。
「大丈夫か?! 何があったんだ、柳!」
明翔が肩をつかんでブンブン揺らす。
「ケガの度合いが分からねえのに揺らすんじゃねえ! 頭を打ってたら危険だ!」
颯太の一喝で明翔が手を放す。
柳は鼻と口から血を流し、メガネのまま殴られたのか細かい傷が左目の周りを中心に無数にある。メガネは見当たらない。
痛々しい顔から思わず目をそらしてしまうと、柳の右手が赤黒く腫れている。
「……折れてるな」
「え!」
颯太が口では冷静に言いながら、内心は怒りに燃えているんだろう、かわいいフリを完全に忘れている。
「あ……佐藤くん……」
柳が薄っすらと目を開いた。
「柳! 大丈夫なのか?! どうした?! 何があった?!」
みんなが口々に言葉を投げる。ケガをしている友人を前に誰もが冷静でいられない。
「……誰にやられた?」
颯太が任侠の世界の目で問いかける。
「……山手男子高の……呂久村くんの金を盗ったヤツら……」
「あ! ひったくり?!」
俺の金を盗ったのは同じ高校生だったのか。
山手男子高はこの辺からはちょっと離れているが、ヤンキーが多く校内でもしょっちゅうケンカしてると山手男子高に進学した中学時代のヤンキー友達が言っていた。
「なんで柳が? 俺の金を盗って捕まったんだから、俺を狙うはずじゃあ……」
「柳がバイクのナンバーを覚えていたからかな?」
「たしかに、柳のおかげで捕まったようなものだったね」
「あ! 俺のせいだ!」
「え?」
あの日の自分の言動を思い出す。顔から血の気が引いていくのを感じる。
俺のせいで、柳はこんなケガをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます