第35話 こじらせ腐女子、一条優
放課後、俺らが入学した時や2年に上がった時に書かされた健康カードなどたくさんの書類を一条優が書いている。
いとこの高崎明翔が付き合って残ってるから、俺も流れで見守っている。
性別って、案外いろんな書類で丸するもんだな。
「こんなにたくさん、めんどくさいよねっ」
佐藤颯太が一条優の机に置かれた書類の束を手に取る。
たしかに。入学早々うんざりした記憶がある。
帰ったのかと思っていたが、柳龍二が教室に入って来た。
「一条くん、これ渡し忘れてたらしくて。今日中だって」
「げっ、さらに増えるの? 俺先に帰っていい? 優」
「ダメに決まってるだろう! ボクまだ道覚えてないんだから」
「さっさと覚えてよー。俺帰りに深月ん家行ってメシ作りたいし。ね」
明翔が笑いかけてくる。かわいい……。
「お、おう」
だが、一条優の前であんまり言わんでほしい。できれば俺のこと好きだってのも言わないでいただきたいところなんだけど……。
一条優が俺の顔をじーっと見ている。
「え、な、何?」
小学校時代に戻ったかのように心がかき乱される。こうして近くで見ると、髪はかなり短くなってるし学ラン着てるから一見男だがやっぱり一条優だ。
相変わらず美少女だなあ……。
「君が主人公だね!」
一条優が唐突に俺を指差して高らかに言い放った。
「は? 主人公?」
「背が高いだけの凡顔! 誰とカップリングされても違和感のない無個性!」
「はあ?!」
「明翔は中性的な美形、彼はかわいいショタ、彼はイケメンメガネ王子」
一条優は次々と周りの連中を指差していく。
「周りを現実には有り得ないほどに顔のいい男に囲まれた中の普通の人。君以外、主人公になり得ない!」
「は?!」
「優、いきなりぶっ飛ばすんじゃない。また不登校になるなよ」
「不登校?」
え……あの、人気者の一条優が?
一条優と明翔が目配せをしている。
……なんだ?
「このメンツなら言っといた方がいいか。優は超重症なBL脳患者なんだよ。そのせいで前の高校では浮きまくって、最終的には不登校になって退学一直線だったの」
「びーえる?」
颯太がかわいく首をかしげる。これは演技じゃなく、普通に分かんねえだけだろうな。
「ボーイズラブ。男同士の恋愛を描いた漫画とか小説とか」
「え……」
男しかいないこの状況で男同士の恋愛とか、すげー空気。
「ボクは、たぶん神童だった」
「は?」
すげー何言ってんだ感出してしまったが、発言主が一条優だと確認したら取り消したくなった。
「スポンジのようにかなカナ漢字を覚えたボクは、3歳から小説を読み漁った。男女の恋愛なぞ5歳には飽きた。そして、BLに出会った。それからは、ひたすらにBLしか読まなかった」
「5歳? 今5歳の話してんの?!」
「そうだ。ボクは言わば、ただの腐女子ではなく、高2にして腐女子歴10年以上を誇る国宝級腐女子なんだ」
何言ってんだ、コイツ。
もうワケ分かんねえ。
「ただボクは、まだ理想のBLを見ていない。ボクは、ボクの理想のBLが見たいんだ。だから、男子としてこの学校に転校した」
「……え、心は男だから、じゃなく、理想のBLを見るため?」
「ボクは、理想のBLを見るために男になって男として男と恋愛がしたい!」
「……は?」
一条優が何を言ってるのか理解できない。
「最終的には男と恋愛したいんだよな?」
「うん」
「一条、女だよねっ?」
「うん」
「一条くんが普通に男子と恋愛すればいいんじゃないのかい?」
「違う」
「何が?」
「それではただの男女の恋愛だ。ボクが見たいのはボクの理想のBLなんだ。ボク自身が女では、見られるはずのない世界なんだ!」
……本気で、何を言ってるのか分からない!
「理解しようとするな、時間の無駄だよ。優は国宝級腐女子なんていいように言ってたけど、単に腐女子をこじらせてるだけだから」
え? こじらせてる女子を腐女子と名付けたんじゃなかったの?
腐女子をこじらせてるって……どうゆう状態?!
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