第27話 高崎 明翔の言うことには
言葉もなく呆然と立ち尽くす俺に、明翔は相変わらず笑顔を絶やさない。
……今、明翔……何の冗談を言った?! なんか汗ダラダラ出てきたんだけど。
いや、俺も明翔のこと好きだよ。そりゃーもう、好きだよ。だって親友だもん。
「俺さー、小学校の時にいとこの運動会行ったの。そんで、トイレの場所が分かんなくてもらしそうになってたら、トイレトイレ言いながら走って行った子を見付けたの。その子についてったおかげで、もらさずに済んだの」
「うん。それは前にも聞いた」
拍子抜けだわ。何の話が始まったんだ、一体。
「その時、俺が手ぇ洗ってたらその子も手を洗いだしたの。でも、ハンカチ持ってないみたいで手振って水気飛ばそうとしててさ」
「え……」
「トイレの恩人だしと思ってさ、俺のハンカチをどうぞ、って渡したの。そしたらその子、ありがとう! って持って行っちゃってさ」
その話なら、俺、知ってるかもしんない……。
無意識にポッケからハンカチ様を出す。ハンカチに目を落とす。明翔を見た。
「……これ」
「俺のだわ」
「えー?!」
めちゃくちゃびっくりして、すっげー大声が出た。
「何の話?」
と颯太や柳や黒岩くんたちは首を傾げつつ眉間にしわを寄せる。
ごめん、ちょっと今説明する気ない。
「あ……返す。ありがとう。えっと……長いこと」
「いいよ、お守りなんでしょ。こちらこそ、ありがとう。長いこと大事にしてくれて。うれしかった。俺、深月のこと好きだなって思った」
こぼれんばかりの笑顔が胸に刺さってえぐってくる。
だから、どういう意味?!
一条優そっくりの顔で、どういうつもりでその言葉言ってんの?! 俺を惑わせんのはやめてくれる?! 明翔、男じゃん!
「お……俺も好きだよ。親友だもんな」
「あ、親友ルートにつなげようとしてるな。なんか違うと思う。俺、颯太も好きだけど颯太の好きと深月の好きは違うんだもん」
「は?!」
またドデカい声が出てしまった。何度も大声を出す俺に何事かと立ち止まる生徒が何人かいる。
「何言ってんの? 明翔? 俺たち親友じゃん?」
「親友推すねー。何がきっかけで親友を好きになるか分かんないもんだよね。こんな忘れ切ってたようなハンカチ1枚でさ」
明翔が俺の手のハンカチ様を笑顔で指差す。
あ……俺たち、小1の時に会ってたのか。全然顔覚えてないけど。かけっこに間に合わないって急いでたし。
一条優と出会った小1に、明翔とも出会ってたなんて皮肉なもんだな。
「ちょっと待ったあ!」
なんとなく見つめ合う俺と明翔の間に、黒岩くんが焦った様子で割って入る。
「ぼっ……僕は、高崎くんが好きです!」
「げっ!」
もうワケが分からなくなってきて変な大声が出た。
耳まで真っ赤になって明翔に向かう黒岩くん、キョトンと黒岩くんを見る明翔、滝のような汗をかきながらふたりを見る俺。誰も言葉を発せずすっげー静かだけど、俺的にカオス。
「え……ガチリアルBL? 三角関係?」
衝撃の発言が聞こえて、振り向くと好奇心を抑える気のない顔をした隠れBL大好きさん、モブ女生徒ゆりがひざガクガクで興奮気味に俺たちを指差している。
……BL……BL?! 俺が?!
「違うよ、ゆり。俺黒岩くんのことはただの友達のひとりだと思ってるから、そこ一方通行だよ。三角関係にはならないんじゃない?」
「え? あれ? そっか、三角にしようと思ったらこの場合、呂久村くんの矢印が黒岩くんに向かないと成り立たないのかな?」
「あ、でも、深月も俺のことが好きなら俺に向かう矢印2本の三角関係が成立するね」
「ばっ……」
思わず頭の中にナチュラルに人物相関図が浮かんでしまって、慌ててかき消す。
「バカなこと言ってねーで、教室に優勝旗置きに行くぞ、明翔!」
「あ! 待って! リアルBL!」
「変なあだ名付けてんじゃねえ!」
思わずリュックをグランドに叩きつけ、優勝旗を手に校舎へと走り出した。
「黒岩くん、俺は深月が好きだから俺のことは諦めてね」
「明翔!」
慌てて振り返って明翔を止める。
「はーい。じゃーねー」
明翔がやっと走り始めると、
「僕は、諦めないからー!」
と甲高い絶叫が聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます