第21話 成績表にある序列

 白いタンクトップ姿の担任が全員に中間テストの成績表を配り終え、教卓に立つ。

「各自反省点を考えて、期末に活かすように!」


 ……軽く死ねた……。

 欠点がなかっただけ良かったけど、真面目な生徒の多いこの聖天坂高校ではそれくらいじゃ成績は下の中である。

 クラス内順位、37人中32位ですって。

 学年順位、250人中222位……まあ、まだ下に30人近くいるワケだし?


「すっげー、ゾロ目じゃん。ツーツーツー」

「うわ!」

 いつの間にかチャイムが鳴っていたらしい。前の席の高崎明翔が振り返って俺の成績表をのぞき込んでいる。


「俺のだけ見るとかずるいだろ! 明翔も見せろよ」

 人のことは言えないが、明翔もたいして勉強してなさそう。元々2割は完全にやらないって言ってたし。

 だいたい、スポーツ万能なヤツは頭バカなもんだし。


「クラス内2位?! え、明翔頭いいの?!」

「時事問題をヤマ外したんだよなあー。あれが当たってりゃ1位だったかもしんないのに、悔しいー」

 こいつ、クイズ番組感覚でこの成績かよ……ムカつく。


「明翔が2位かー。俺3位だよ。何点差だったのかなあ?」

「成績表見せてよ、颯太。お、やべー総合得点8点しか違わねえ」

「よーし、次は勝つ!」

 颯太も相変わらず頭いい……力で兄姉に勝てない颯太は勉強をがんばり、末っ子でありながら佐藤家の頭脳として家族の中の立ち位置を築いている。


「1位誰だったんだろうねっ?」

「僕だよ」

 ひらひらと成績表をたなびかせながら柳龍二がイケメンフェイスに笑みを浮かべてやってくる。ムカつく。パンツ王子のくせに。


 おおー、と明翔が拍手を送る。

「やっぱ伊達に学級委員長なワケじゃねえんだな」

「別に成績で選ばれるものでもないけどねっ」

「佐藤くん、あんなに強いのに勉強もできるなんてすごいね」

「柳こそ、こんなチャラくさい見た目しててもちゃんと勉強してるんだね。ちょっと見直したよ」

「ほんと?! がんばって良かったよ、僕!」


 成績上位者の方々はごきげんさんでよろしゅうおすなあ。あー、ムカつく。


「なあ、テストも終わったしリレーの走順決めようぜ!」

 明翔は切り替え早えな。春の体育大会の花形、最終種目リレーでは男女混合で、男子4人女子4人が走る。男女ともスポーツテストの50メートル走が速い順で選出した。

「ていうか、深月以外足速いメンバーがまんま成績も良かったんだね」

「え?」


 俺、明翔、颯太、柳が顔を見合わせる。

「その発言は学級委員長として看過できないな。いくら呂久村くんがぼんやりした顔をしているからって、成績が悪いと決めつけるのは良くないよ、佐藤くん」

 キリっと厳しく柳が颯太に注意する。オイ、誰の顔がどうだって?


「俺幼なじみだから深月が成績悪いの知ってるんだけど」

「ああ、そうか。事実呂久村くんは成績が悪いんだね。早とちりしてごめんね、佐藤くん」

「うん、いいよっ」

「俺には詫びなしかよ!」

「え? 実際成績悪かったんじゃないの?」

「悪かったよ」

「何を詫びることがあると言うんだい?」

「う……」


 ムカつく! 柳ムカつく!

 なんでこんな澄んだ瞳でまっすぐ見つめてくるんだよ!


 明翔がニコニコ笑って俺の肩を叩く。

「まあまあ、安心しろよ、深月。深月が頭悪いからって仲間はずれにしたりなんかしねえからさ!」

「追い打ちやめろ!」

 昨日まで俺けっこうデカい口叩いてた気がするのに、なんかこの成績表のせいで俺の序列が下がった気がする!


 しょーがねえじゃん、俺そもそも高校受験でこの高校に合格したのが奇跡みたいなもんだったんだから!

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