第20話 春の体育大会へ向けて

 高崎たかさき明翔あすかが輝く笑顔で教室に入って来る。

「おっはよー! ん? どした? 寝不足?」

 誰のせいだと思ってんだよ! 朝っぱらから元気いっぱいだなあ、オイ!

 こっちは寝付けねえわ変な夢見るわ何台も消防車走るわで完全なる寝不足だわ! 朝調べても自宅付近で火事のニュースなんかねえし! ボヤで夜中に何台も走らせてんじゃねーよ!


 チャイムが鳴り、教室に白いタンクトップ姿の担任教師が入って来た。

「春の体育大会があります! まずは、実行委員を決める! やりたい人ー!」

 はーい、ならぬ、しーんだわ。そんなめんどくさいもんをやりたがる高2などいない。


「高校生活でたった3回しかない春の体育大会だぞ! もっと燃え上がって張り切ってやろうや! はい、実行委員やる人ー!」

 ショボいんだよ、春の体育大会。秋の体育祭の方が規模デカいじゃねーかよ。


「お! それもそうだな! 俺、燃えるぜ!」

 前の席から元気に手が上がる。乗せられやすいヤツだな!

 まーいっか。体育大会に燃えるようならいらん心配をする必要もなさそうだ。

「よし! やるか、明翔! 俺も燃える!」

「決まり! 実行委員は高崎と呂久村ー」

 パチパチと同意の拍手が起こる。あっさり決まって、みんな安堵の表情だ。


 その様子を見て、我に返る。

 あー、つい、めんどくせえもんを引き受けちゃったな。


 前に出て、チョークを持ち黒板に種目を書いていく。

「じゃあ次ー、綱引きに出たい人ー?」

 明翔の問いかけに、たくさんの手が上がる。綱引きは出場人数が多い上に個人の力量を測られない種目である。人気だ。


「あれ? 黒岩くろいわくん意外と力持ちなんだ?」

「えっ?」

 突然の個人面談に、もやしっ子黒岩くんが慌てる。


「いや、僕運動全般苦手な上に力もないよ」

「なんで力ないのに綱引き?」

「綱引きなら目立たずに済むかと思って」

「は?!」

 にこやかだった明翔の顔が険しくなる。てか、大半が黒岩くんと同じ理由で手を上げていたと思うんだが。


「綱引きは運動音痴の隠れみのじゃねーんだよ! 綱引きは力に自信のあるヤツが輝く競技なの! そんな理由じゃ綱引きへの出場は認められない!」

 ええ~……と、クラス中からぼやけた声が上がる。

 ……お前ら、めんどくさいヤツを実行委員にしてしまったもんだな。


「綱引き希望してた人、集まって! 腕相撲で出場者を決める!」

 突如、腕相撲大会の開催である。男女に別れて、トーナメント式に大会が進行されていく。


「はい、綱引きはこちらの男子5人、女子5人に決定!」

「やったー!」

 死闘を勝ち抜いた決定者たちが勝利の拳を振り上げた。

 案の定、黒岩くんは1回戦敗退である。


「足は遅い、力もない、ボールの扱いまでド下手で体育ではまるで輝かない黒岩くんが戦力になるのは、コレかな」

 明翔が辛辣な言葉と共に指差したのは、借り物競争だ。

「僕、重度の人見知りなんだけど……借りられるかなあ」

「そんな心配してんの? 大丈夫大丈夫! 俺らが協力してやるから!」

 あははは! と笑い飛ばして明翔が黒岩くんの背中をバシバシ叩く。俺ら、ってもしかして俺も入ってる?


「リレーは足の速いヤツから順番ね。男子は、上から……俺、深月みづき颯太そうたやなぎ龍二りゅうじ

 いつものメンバーじゃねえか。柳も足速かったんだ。


「よっしゃあ! みんな全力でいくぞ! 2年1組、優勝あるのみ!」

「優勝あるのみ!」

「やるぞー!」

「おー!」

 わああーと盛り上がる。こんな全力で学校行事に取り組む高2が他にいるだろうか。しかもクラスの連中まで巻き込んで。

 暑苦しいヤツだな、明翔は。こういうとこはついてけねえわ。

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