第8話 高崎 明翔はボーダーレス
1時間目が終わり、休み時間となった。
俺の前の席に座る高崎明翔が振り返る。
「深月、食うもんねえ?」
「俺の昼メシしかねーよ」
「深月、昼メシいる?」
「いるよ!」
ちぇー、と口をとがらせる明翔が超かわいい。
いや、だから、なんで共学校で男をかわいいと思わないとなんねーんだよ。
まあでも、すごいヤツだよな。この俺も認めざるを得ねえわ。
すげー運動神経いいんだもん、コイツ。
女の子みたいなかわいい顔してるくせに、身体能力えげつないんだもん。
「あ! ねえ、りりあ、食うもんねえ?」
ただ、何よりすごいのがこの食い意地と食いもんにありつくために誰にでも声をかけるコミュニケーション能力な。
「えっと……デザートに食べようと思ってたみたらし団子だったらあげてもいいけど……」
明翔のおねだりに白旗を上げたか。赤い顔をしてみたらし団子を差し出す。
「やったあ! ありがとう、りりあ」
立ち上がって団子のパックを受け取り、りりあの額に口をつける。
「キャー!」
一瞬にして沸騰したかのように真っ赤になったりりあが走り去り、明翔はパックを開けて串に4つ並んでる団子を口に含む。
全く、コイツは……。
「お前、そのうち刺されるタイプだな」
「俺が? なんで?」
「……刺されりゃ分かるだろ」
「それ手遅れじゃない?」
ニコニコして早くも2本を平らげ、残るは最後の1本である。
「ああ、俺だけ食ってるのが気に入らないの? はい、あーん」
最後の1本のひとつめの団子をすでに食った串を俺の目の前に差し出す。
お! うまそう!
反射的に食らいついた。うん、うまい!
「俺と間接ちゅーだね、深月」
「ぶはっ」
危うく口から団子が飛び出すわ! 何言い出してんだ、コイツ!
「いいなー、何食べてるの? 明翔」
佐藤颯太がテテッとやって来る。
「おー、ギリセーフ~。最後の1個食う? 颯太」
「え? これお前が食った串だろ? いらねえ」
「なんでー、団子うまいのにー」
「団子はうまそうだけど」
普通は男同士で間接ちゅーだなんて考えねえか、颯太みたいに拒否るよな。
なんで明翔は平気なんだ。
この席になって数日が経つが、どうも明翔は男と女の境界線がない。
男と女どころか、友達と知り合いと他人のボーダーラインもなさそう。誰とでも即お友達になってしまう。
俺は明翔とすげー気が合うなって思ってるし、この数日ですっかり仲良くなったつもりだけど、明翔にとっちゃあその他大勢と変わんねえのかもしんねえなあ……。
って、寂しいってほどのことじゃねえんだけどさ。
何を若干物足りなげに明翔が団子食ってる顔を見てなきゃならねーんだか。
「うまかったね、団子」
「え? ああ、そだな」
「やっぱり、ひとりで食うよりシェアした方が共有感あっていいよね」
「シェア?」
ああ、シェアだったんだ。
だから気にならない訳ね、明翔は。って、だったら間接ちゅーとかいらんこと言うなよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます