知られては、いけないこと。
小島のこ
序 後ろめたい思い
「じゃあ、また」
「うん。気を付けてね」
いつものように、彼は私に背を向けた。振り返ることはない。だから私は、直ぐに扉を閉めるのだ。追い縋るように、あの少し丸い大きな背を見てはいけない。行かないで。帰らないで。それだけは、決して言いたくない。
「バッカな女……」
一人呟く声は、静寂の部屋に消える。あの人の温もりの残る布団を抱いて、私は目を瞑った。
こうしてくだらない時間を過ごして、私は老いて行くのだと思っている。その覚悟だって出来ている。私たちは、この狭い部屋の外で会うことはない。つまりは、そういう関係なのだ。彼の事情を知った上で、関係を持った訳ではない。それでも、今は全て理解しているのだから、彼と同罪。別れなければいけないことなど、私が一番分かっているのに。他との関係を全て遮断してまで、関係を続けることを選んでいるのは私なのだ。私が弱いから。彼が居ないと、不安だから。未来などないことを理解しつつも、私は今日も言い訳を探している。
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