手刀ひらり、四級女官ピクルスの試練
鐘が四つ鳴る。午後六時だ。
「いよいよ、わたくしはアルデンテ王と謁見を……」
緊張の色を隠しきれない白衣装の四級女官が、今それでも勇み足にはならない着実な歩みをして、ネオ・アルデンテ城中に入ってきた。
「こちらで、少し待ちなさい」
「ラジャー!」
新参者のピクルスは、新宰相のビスマーブル‐ドテカボチャに先導されて入室することになった「女官たちの控え間」で、ソファーへ静粛に腰かける。晴れの時を踏まえて、着替えてきた女官衣装が皺にならないように気遣っている。
名刀オチタスピは武器弾薬庫に置いてきた。本番は手刀のみで挑むのだ。
数分間黙想しながら待っていると、城内アナウンスが始まった。
《あーあー、本日は晴天なり。あーあー、テステス》
張りのあるこの声の主は、二級女官アンドナツ‐パンコだ。
《あー、これより、あーその新米女官ピクルス大佐の、着官報告、並びに一発芸披露の宴会を、華々しくも王女三姉妹様の主催により、盛大に開会致します。お手空きの皆様、是非ともご観覧下さるよう、お願い申し上げます》
放送が終わってほどなく、ドテカボチャがピクルスを呼びにきた。
「さあ、始まりました。しっかりと、成し遂げなさい」
「ラジャー!」
いざ宴会場へ、ピクルスが威勢良く駆けて向かう。
刀技は受けるだろうか?
王族たちを始めとする参観者の席が整然と並ぶ「BANQUETの間」だ。
上座である奥の中央に、アルデンテ王がどっしり構える王座があり、そのすぐ右に、
王座から左に少し離れたところの三席は、向かって右から順に、
左右の壁側にも、ずらりと席があって、アルデンテ王の弟家族を始め、マカロニ公爵家族、ペンネ伯爵家族、コンキリエ侯爵家族といった高貴な面面の座姿。末席の方には、フカヒレマートのオーナー夫婦、アルデンテ医科大学長の任にあるボルシチーノ女史、騎士隊長ディラビス少佐の黒髭顔も見える。
そういった大勢の観客にぐるりと囲まれて、大広間のど真ん中にポツリと用意された席にピクルス。一見うやうやしく畏まってはいるようだが、それでいてどこか堂々とした雰囲気を醸し出している。
「わたくし、この春からご厄介になりすましてる、あいえ、なりますてるは四級の女官、王宮一の貧相女とのこと、その名もピクルス大佐、十七歳。前に生きて育ったはウムラジアン大陸ヴェッポン国。王立第一アカデミーを中退。父は伯爵にして武器商人。ですから王族のみなさん、武器いかが? 扱い方教えますわよ!」
前口上を、やや紋切り型ではあるものの、どうにかこうにか切り抜けた。
しかし、ここで息をつくのは、いささか早合点といえよう。
「アカデミーを中途退学なさった、その真の理由は?」
「わたくし、お勉強は嫌いですわ」
「そう。分かりましたわ」
三王女からの口頭試問は、新米女官たちにとっていわば登竜門。ここで心の芯を折られてしまって里に帰った少女は多い。
そうではあるが、少なくともピクルスは芯の強い子である。それでいてアルデンテである。決してこのような試問に負けたりはしない。
姉ラザニャンに続いてタリアテレン。
「武器を売ってらっしゃるそうですけれど、お勧めは?」
「お勧めは、四百連射銃ですわ。今朝は騎士隊長のディラビス少佐に、百挺をお買い上げ頂きましてよ♪♪」
「ま、本当?」
「シュアー!」
「そう。でしたら国境警備軍の方にも、二千挺ほど用立てなさい」
「シュアー。こちらも契約成立ですわね、おっほっほほほほ~♪」
アルデンテ王も参観している、この口頭試問の場で商売をやってのけた者はピクルスが初となる異例事だが、商談のうまく纏まった縁起の良さに対し、参観者全員の「よーお、パン!」という一本締めで落着した。
次はラビオリンだ。
「ピクルス大佐の、主な軍功は?」
「フランセ国空軍大将スッパイーゼ‐ウメイメシ氏暗殺阻止、並びにフランセ国内乱の防止。ソシュアル国ツナカンチョフ‐ノンオイルノの野望打破。ウムラジアン大陸とヤポン神国との友好関係構築。アインデイアン大戦の終戦への貢献。ガラナ帝国の平和維持活動。などといったところですわ」
「まあ、良く活躍なさっておいでね?」
「シュアー!」
ここでも参観者全員が感心して、一介の四級女官に対し、一切の惜しみがない拍手を送ることとなった。
口頭試問を無事に終えた今、いよいよ大喜利の時だ。
クイーン・アルデンテの手にハンド・マイクが渡った。
「事前、宰相ビスマーブルの説明、なんぞな汝の芸、ウィーズル・ウィズ・シクルいうは、少なからず危険伴う刀技、いわさっしゃったや、もし?」
「シュアー! けれど、わたくしに限り、仕損じはあり得ませんわ。おほほほ」
「抜かしおるかな、そは汝の過信、あるまじや、もし?」
「アル・マジ!」
「まじや、もし?」
「シュアー・ソー・マジッス!」
全力で肯定するピクルス。
やるべきことはやった。一片の悔いもない。
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