ピクルス争奪一斉射撃対決
ここは、昨日まで通称「緑と自由の丘」があった跡地である。ピクルスがバズーカで超強力破砕弾を撃ち込んだため、丘は見事に吹き飛んでしまったのだ。
そのため、今はなんと呼ぶべきか、辺り一面が荒地のようになっている土地なのだが、ちょうどピクルスが一辺二百五十メートルの正三角形と、その各頂点を中心とする半径十メートルの円を三つ描いたところだ。
各円の中にいるのは、ピクルス・オムレッタル・サラミーレだ。
三人はアサルトライフルを一挺ずつ手にしている。実弾を使うのは少し危険が伴うため、訓練弾を使って戦うことになった。
目的は、オムレッタルとサラミーレのうちどちらがピクルスの婚約者になるかを決めること、すなわち「ピクルス争奪一斉射撃対決」である。
トライアングルゾーンから百メートルほど離れた場所には、ヴェッポン国王とデモングラ国の第一王子ジャコメシヤが傍観している。
「さあ戦いを始めますわよ♪」
ピクルスによる開戦宣言だ。
といっても、実際に対決を開始する合図は、今から十秒後にジャコメシヤが撃つことになる空砲の音だ。
ルールは簡単。円内から互いに撃ち合う。円から出ると直ちに負けとなる。
判定方法は、一分間でオムレッタルとサラミーレのうち、どちらが多くピクルスに弾を当てるか。オムレッタルが持つライフルの訓練弾は黄色の顔料で、サラミーレが使うのは青色の顔料の弾だ。
ピクルスも、ただ撃たれるだけだと面白くないので、愛用している赤色のタンサ弾を使ったライフルで反撃することになっている。
三人が着ている肌色の特殊スーツには、訓練弾の色別着弾カウンター機能があるので、当てられた弾数は自動的に分かるのだ。もちろん、スーツ以外の顔や手に当てられた弾は一切無効とする。
――ドォーンΩ!!!
対決開始だ。
――ピピピュンピュンピュン@!
――ピピュンピュンピュン@@!
――ρρ・ρ・ρ・ρ・ρ@!
――ρ・ρ・ρ・ρ・ρ@@!
――ピピュピュンピゥン@@@!
一斉射撃終了。たったの八秒。
オムレッタルのスーツにもサラミーレのスーツにも、二百発以上のタンサ弾が当てられて真紅に染まっている。これは、この戦いにおける死亡を意味する、つまり負けなのだ。
一方、ピクルスのスーツは肌色のままで、汚れ一つない。
「もうお仕舞いですの? おっほほほほ、手応えありませんわねえ」
「……」
「……」
二人の王子には、返す言葉もない。
「さあお約束の通り、あなた方は、それぞれに予定されていたお見合いをなさって下さるかしら?」
「ああ、仕方ない……」
「そうだね、ショコレットとのお見合い、するよ……」
続いて第二回戦。今度は、ピクルス・ヴェッポン国王・ジャコメシヤの三人が円内に立っている。この戦いに特に目的はない。一回戦を傍観していたジャコメシヤが、自分もやってみたいといっただけである。
開戦合図の空砲を撃つのは、オムレッタル。
――ドォーンΩ!!!
始まった。
――ピピュピュンピゥン@!
――ピュンピュンピュン@@!
――ρ・ρ・ρ・ρ・ρ@!
――ρ・ρ・ρ・ρ・ρ@@!
――ピピュピュンピゥン@@@!
「おーっほっほほほぉー、快感ですわぁ、楽しいわよっ!!」
――ピュンピピピュンピュン@!
――ρ・ρ・ρ・ρ・ρ@!
――ピュンピュンピピュン@@!
――ρ・ρ・ρ・ρ・ρρ@@!
――ピュピゥンピュ@!
一斉射撃終了。今回は十七秒で、比較的長かったといえよう。
ピクルスはまた無傷だった。スーツだけでなく、顔にも手足にもなんの汚れもついていない。
顔や手足に汚れがないという点では、ヴェッポン国王もジャコメシヤも同様なのだが、しかしスーツは真紅――つまり、ピクルスは確実に彼らのスーツだけに当てたのだ。
「いやあ驚きましたよ。さすがはキュウカンバ伯爵家のピクルス大佐だ。これほどまでの実力をお持ちだとは……私もライフルだけは、かなりの自信があったのですけどね、はっははは」
「おっほほほほ。いえいえ、ジャコメシヤ様も、なかなかの腕前ですわ♪」
文武両道として名の通ったジャコメシヤは、デモングラ国で毎年開催されている国民体育大会のライフル競技で優勝したこともある。だがそれでもピクルスが相手だと、まるで素人同然の結果に終わったのである。
「オムレッタル、サラミーレ、これでピクルス大佐が、お前たちには勿体ない御仁であることを思い知ったであろう。さあ、すぐにお見合いの準備をせよ」
「はい兄さん、分かりました」
「僕も分かったよ……」
「おほほほほ、これにて一件落着ですわ♪」
こうして、デモングラ国の王子二人によるピクルスへのダブルプロポーズは、数百発のタンサ弾とピクルスの高笑いによって、見事に撃ち砕かれたのである。
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