キュウカンバ伯爵家のピクルス大佐ですわよ!

紅灯空呼

第一部

【第一部開幕】伯爵家令嬢ピクルス大佐

武器が大好きなお嬢様

 一年を通して温度・湿度ともに快適な状態にあるヴェッポン国。

 空は今日もまた良く晴れ澄み渡っており、雲に隠されることなく、ヒバリが高く飛んでいる。

 ここは見晴らしの良い丘。通称「緑と自由の丘」だ。

 この丘のてっぺんに紅白の派手なゴスロリ風衣装を身に纏った少女が一人で立っている。その髪は黒く潤いのあるストレート。

 少女の両の手には四百発同時発射タイプの機関銃が一挺ずつ握られている。

 さらに背中には彼女の背丈ほどもあるバズーカが一門ある。

 丘の下の四方八方から数千の迷彩服が駆け上がってくる。


「きましたわね、カクロウチ兵ども♪」


 少女からカクロウチ呼ばわりされている迷彩服たちは、皆ライフルを肩にかけており、颯爽とした走りで近づいてくる。


「さあ始めますわよ。それそれ、それそおれっ!!!」


 ――ヅヅヅッヅッーン! ヅヅヅゥン!!

 ――ヅヅッヅッーン! ヅヅヅゥン!!!

 ――ズッヅヅゥン!! ズッキューン@@

 ――ズキュン$ ヅヅッヅィーッン!!!


 ゴスロリお嬢様の持つ二挺の機関銃から弾き出される毎秒八百発の弾を、まるで横殴りの雨又は雹のように浴びせかけられ、次々に倒れる迷彩服。


「おっほほほぉー、快感ですわぁーっ!」


 迷彩服のライフルからも弾は繰り出されているのだが、それらは一発たりとも少女には当たっておらず、ゴスロリ風衣装にすら掠りもしない。


「さあさあ、さあさあさぁあーっ!!」


 ――ヅッヅヅッヅッン! ヅキューン!!

 ――ピュピュピューン! ヴヴヴゥン$$

 ――ピュンピュン! ピュキューッン##

 ――ズヴッブゥキュンζ ビュキュンζζ


 既に五千体以上もの迷彩服が倒れて辺りに折り重なっている。

 にもかかわらず迷彩服は次から次へと湧いて出てくる。


「おっほっほーっ! さあ、きなさい、きなさい!」


 迷彩服はどんどんどんどん現れる。


「ほらほらほら、ほうらぁーっ♪」


 ――ヅヅヅッヅッーン! ズヅヅヅゥン!!

 ――ズズッズィィーン! ヴェェェン!!ξ

 ――ヴィユンヴィユン! ドュピューン##

 ――ヅドドンピュキュン!λ ピュウン♪♪


「まだきますか!」


 迷彩服はまだまだわんさか湧いて出る。


「おっほほほ。でしたら、超ビッグな一発、いっときますぅ?」


 背中に背負っているバズーカを軽々と肩に担いだ少女はその体勢のまま、なんとハイジャンプする。

 上空へと向かう加速度はなかなか衰えず、十五メートルくらいの高さにまで達した少女がバズーカの発射口を下へ向けた。


 ――ズッドドドδドオォォーッン!!!!


 少女のいっていた超ビッグな一発が、丘もろとも吹き飛ばした。

 彼女の位置は既に地上から約六十メートル。


 ――シュパッパρパァーン!!!


 雲一つない大空に見事な大輪の花が咲く。

 ゴスロリお嬢様の背中に装備されていたパラシュートが開いたのだ。

 ふわりふわりと舞い降りる少女の姿は、まさに堕天使そのもの。


 Ω Ω Ω


 ヴェッポン国はウムラジアン大陸に七つある国のうちで国土が最小。

 だが強い。使う武器が違う。その使い方がうまい。周辺の国々が奪い取ろうとして繰り返し攻めてくるのだが、過去三千年で占領されたことなど一度もない。

 特に北東に隣接するソシュアル国と北西に隣接するデモングラ国。

 この二大国がここ数百年間、競い合うかのように侵攻しようと向かってきたのである。だがヴェッポン国は悉く打ち負かした。

 ある時にはその両国が組んで攻めてきた。まずヴェッポン国を負かしてから、後でゆっくり分け合うか奪い合うか、そんなことを企んだのであろう。

 だが、そこまでしても結果は変わらなかった。他国がどれだけ躍起になろうとも必ずヴェッポン国が勝つ。


 ヴェッポン国からは攻めて出ることはしない。つまり防御に徹しているのだ。単に守るのではない。攻撃が最大の防御。向かってきたら徹底的に叩き、逃げたら決して追撃しない。

 打って出ない・正面のみを討つ・背面は無視。これら三原則を全兵士が実戦において確実に実践する。

 強さの理由はそれだけではない。国土は小さいのだが、この地方には鉱山が集中している。遥か昔から銀・銅・鉄が豊富に採れている。どれも良質だ。ヴェッポン国の民は鉄の加工技術に長けており、武器の違いはそれによるものであった。また新しい武器を発明することにおいても随一。どう見ても他国より百年近く進んでいる。

 そして個々の兵が強い。決して敵に背を向けない。背後は岩山。背を見せれば死が有るのみ。同じやられるのなら正面だ。

 背岩の陣――この兵法極意を、ひたすら貫き通す。また、兵たちの団結が固い。連携がうまい。隊の律動的な動きは、まさに芸術である。


 やがて周辺各国は諦めることにした。ヴェッポン国と友好関係を結んで武器を買わせて貰うようになった。

 ソシュアル国とデモングラ国の間での戦争、あるいは他国同士の小競り合いは続いていた。当然のことながらヴェッポン国は儲かり潤う。昔から武器商を営んできたキュウカンバ家も繁栄した。伯爵家だ。

 それから五十年が過ぎた。最近ではどこの国も戦争をしなくなった。ヴェッポン国を含めた大陸の七か国は、まさに平和を謳歌する春の世を迎えたのだ。

 もちろん武器が売れなくなる。栄枯盛衰は世の習い。キュウカンバ家の経済が低下の一途を辿り始めたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る